【更新】VHF帯のテレビの「跡地」はあいている

池田 信夫


電波の問題をめぐってはオークションばかり注目されているが、根本的な問題は用途区分である。VHF帯の高い周波数(V-High)は総務省が「マルチメディア放送」に割り当て、彼らの選んだNTTドコモのNOTTVというサービスが行われたが、わずか3年で経営が破綻した。その黒歴史を簡単に振り返っておこう。

VHF帯は、昔アナログ放送をやっていた帯域である。地デジを始めるとき、総務省はUHF帯に移行することを決めたが、民放連が反対したため、アナアナ変換(周波数変換)の経費3000億円以上を国費で補填し、その代わりに2011年に電波を止め、「跡地」を利用する業者を募集した。

ところが立ち退いたはずの民放連が「VHF帯は放送局の既得権だ」と主張した。総務省は民放連グループに一本化工作をしたが、外資系のクアルコムは、アメリカでスタートしていた携帯放送サービスをこの帯域でやろうとした。当時の民主党政権も「オークションで決着をつけろ」と指摘したが、総務省は必死でオークションに抵抗した。

2010年8月、電監審はわずか2時間の比較審査で、ドコモ=民放連グループに免許を与える答申を出した。ドコモは「5年後に5000万台が普及する」という事業計画を出したが、ユーザーは100万人にもならなかった。その結果、NOTTVは2016年6月に業務を終了して電波を政府に返還した。

図のようにNOTTVの使っていた205~222MHzは、今もまったく使われていない「更地」である。その左の「公共業務」と書いてある帯域も総務省が割り当てを決めただけで、実際にはほとんど使われていない。

このように非効率な使い方が続くのは、電波の用途を総務省が裁量的に決めているからだ。用途を制限しない帯域免許にして、何に使うかは業者にまかせればいいのだ。VHF帯は通信には使いにくいので、放送サービスに向いているが、従来のテレビではなく携帯端末を使ったサービスになろう。

VHF帯で帯域免許をつのったら(既存のテレビ局を含めて)多くの業者が応募するだろう。そのとき電波をもっとも有効利用する業者を選ぶ方法がオークションである。それを比較審査で選ぶと悲惨な結果になることは、NOTTVが示したとおりだ。

追記:総務省は22日、「VHF帯(207.5~222MHz)の利用に係る調査」の提案募集を開始した。