迷走する卸売市場法改正議論と豊洲移転騒動の教訓

1月に築地市場を視察した小池知事(都庁サイトより:編集部)

ども宇佐美です。
寒い夜にはやっぱりTRFだと思うんですよ。

さて今回は卸市場法改正を巡る議論の話です。ニッチと言えばニッチな話なんですが、そうはいっても国民全般の食生活なり日本全国の農家経営なりに関わる大きな話ですし、何と言っても私の場合副業でサツマイモの商社を立ち上げているところなので当事者として関わってくる問題でもあります。

まず現状なのですが卸売市場法改正については農業競争力強化プログラムにおいて政府の方針として「抜本的見直し」が決まっており、現在未来投資会議や規制改革推進会議や自民党の農林水産部会で具体的に何をするかということについて議論がなされているのですが、農水省も自民党議員も何をしていいかわからず、業界も降って湧いたような話に困惑して、あらゆる方面において迷走中という状況にあります。

象徴的な話として自民党農林族の議員が「検討すれば検討するほど何をしていいのかわからなくなる」と部会で発言したという小話があるのですが、問題意識があやふやなまま政治主導で制度改正の議論に突入して結果何をしていいかわからなくなり担当の課長が頭をかかえる、という事態はある種の「霞ヶ関あるある」ではあります。

そんなわけで個人的な経験からもやっぱり制度改正というのはマクロ的課題よりもイシューから入らなければいけないと思っておりまして、では卸売市場に関する最近のホットイシューは何かと考えると、やっぱり豊洲市場の移転騒動ということになると思います。


ここまでの騒動の経緯の詳細についてここでまた語る気はないのですが、あらためて振り返ると豊洲移転騒動で論点になったことは【①地下水の汚染、②市場会計の持続可能性、③東京都の無責任体質】の三つだったと思います。これらは全て連動しており

①業界やその利害を代弁する議員の圧力で達成不可能なほどの過剰な汚染対策目標が設定されそれに莫大な税金が投入され、
②その結果として市場会計の持続可能性が危ぶまれるほどのお金を新市場建設に突っ込んでしまい、
③こうしてなし崩し的にプロジェクトが長期化ー巨大化する中で、関係者が増えなおかつ人が入れ替わり全容について一貫して責任を持つ主体がいなくなってしまった、

というところでしょうか。①・②に関しては一部政党が自ら過剰な汚染対策を強く要望しておいてそれが若干でも達成できないとなると担当職員を糾弾し「豊洲市場は汚染されており、また金をかけすぎて赤字運営だから売っぱらって築地を残せば良い」という論陣ををはり世論を引っ掻き回したことは記憶に新しいですし、③に関しては担当局長会議の面々などをみても痛感せざるを得ないところがあります。


こうしたことを考えると今回の卸売市場法改正を考える上で重要なのは「市場の経営ガバナンス」ということになるんだろうと思います。現状は「継続的に市場経営に責任を持つ主体が誰もいない」という状況で、これがあらゆる関係主体の無責任な行動を招いたのだと思います。


一般に中央卸売市場の会計というのはどんぶり勘定になっており、東京都においても、豊洲市場の恒常的な赤字を他の市場の黒字と築地跡地の売却益で補填する計画になっています。これでは遠からず他の市場の関係者が「なぜ俺たちの場所代が他市場の、しかも最先端設備を持つ市場の赤字補填に使われなきゃいけないんだ」と不満を持つようになると見込まれ、他の市場の関係者が黒字化の努力を怠るようになりかねませんし、また最後は税金が補填してくれるとなるとなおさら規律が弱くなってしまうのも当然です。

そんなわけでやっぱり向かうべきところは「市場別の公設民営」で各市場が独立採算で自律化していくような計画を立てて、自治体がホールディングスとして管理するような機関設計を卸売市場法として考えなければいけないんだろうと思います。

そういう中で重要になってくるのは「各市場の自治」というところだと思っていまして、現在ほとんど機能しておらず休日を定めるくらいの役割しか果たしていない市場取引委員会などは、そのような観点で見直されるべきなんだろうと思います。具体的には業者の自治機関として各市場ごとに市場取引委員会が設置され、委員会に市場運営や業者指導に関する一定の権限が付与されるべきなんでしょう。

一方でそもそも論として「築地なり太田なりのような広域圏の生鮮流通を支える巨大なハブ市場を他の中央卸売市場と同等に扱っていいのか」という観点もありまして、輸出強化なども見据え役割分担も含めてそろそろ「中央卸売市場ー地方卸売市場」の2階建ての制度設計を「ハブ市場ー中央卸売市場ー地方卸売市場」3階建てに改めていくような議論も必要になってくる気がします。少し視点が変わりますが、水産業界は現在乱獲で資源管理の枠組みが崩壊して自滅に向かっている状況なので、ハブ市場が買い手の立場から基準を作って生産者に変革を促すようなことも必要になってくるでしょう。

とまぁ色々まとまりもなく無責任に書きましたが、聞くところによると卸売市場法改正の議論は年内が期限であるにも関わらず未だ迷走に迷走を重ねてまとまっていないようなので、本ブログがどなたか関係者の目に止まって多少なりとも参考にしていただけることを願っています。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2017年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。