第4次産業革命とアジアのソフトパワーというムチャなお題。

中村 伊知哉

JEJU FORUM2017に参加しました。
韓国・済州/チェジュ島で開催される国際会議で、今回が12回目。
政治家や起業家、研究者やジャーナリストなど5000名超が70か国から集まります。
韓国版ダボス会議です。

テーマは「アジアの未来の共通ビジョン」。
アル・ゴアさんが気候変動に関する基調講演を行いました。
トランプさんがパリ協定を離脱するタイミングでもあったので、曇り空のもとビミョーな風が渡っていました。

ぼくは「第4次産業革命とアジアのソフトパワー」という、これもビミョーなテーマのセッションに参加しました。
韓国広報大使の朴さんが司会、インド、インドネシア、韓国の研究者らとの討議です。

ぼくは以下の発言をしました。

1)日本政府はソフトパワー、特に文化の政治的価値に気づき、10年前からクールジャパン政策をとっている。
民間主体の海外展開を政府が支援するスタイルであり、官主導の韓国・フランスや、ハリウッド主導のアメリカとも政策スタイルが異なる。

2)日本は戦争に破れて軍国主義を捨て、産業立国に進んだが、この20年間、経済成長が滞る中で、ポップカルチャーの人気が海外で高まり、文化力が注目されるようになった。
かつて日本のイメージはトヨタ、ソニーだったが、今はピカチュウ、ドラゴンボール、セーラームーンだ。

3)少子化が進んで国内市場が縮小する一方、この20年間で世界的にIT化が進み、文化を海外市場に発信することが容易になった。
海外市場では日本の企業と他のアジア企業とは競合するが、連携して、世界でのアジア市場を広げることも可能と考える。

4)ITを使った海外への文化発信はこの数年でようやく成果が見られるようになったが、第4次産業革命によって改めて場面が転換する。
日本政府は第4次産業革命への対応が最重要課題と認識しており、技術開発と、その利用促進に力を入れている。

5)新技術とポップカルチャーの融合が日本の戦略だ。
AIやロボットの技術とアニメやゲームなどの文化を結合して、新しい価値を生み出す。
その生産・発信拠点を東京に作るプロジェクトを進める。
2020Tokyo大会は、新技術とポップカルチャーのショウケースとして活用したい。

6)第4次産業革命は、アジア各国にとって、ピンチでもあり、チャンスでもある。
互いに競争しつつも、新技術を用いて各国のソフトパワーを高める戦略を、連携して作ることが好ましい。

議論がたたかわされました。ぼくが答えたことをピックアップします。

Qソフトパワーと言ってもさまざまな要素がある。アジアはどこにフォーカスすべきか。

A伝統文化、流行文化、宗教、価値観、ライフスタイルなど、要素は多様だ。
それ以上にアジアは多様。
ここにいるメンツ以外に中国も北朝鮮もいる。
それを一つにフォーカスさせるのは現実的ではない。
日本は海外に受け入れられやすい流行文化に注目したのだが、各国が自分のパワーを磨けばよい。

Q第4次産業革命は混乱や格差をもたらす。どう考えるか。

A第4次はモノとモノを結んで人のコミュニケーションを超え、人の能力をも超える点で、それまでの人類史を二分する。
革命後までの社会移行は長期を要する。混乱もあろう。
だが産業革命後の経済社会が安定・成長したように、今回も長期的には経済社会の発展をもたらすと信じる。
そのために、技術だけでなく、経済、社会、倫理、宗教、政治などに関する世界の知見を動員し、新技術と人類の折り合いをつける努力が必要。

Q 課題は何か。

A AIやIoTの進展に伴い、データの保有・利用が最重要課題となる。
それが特定の国や企業に牛耳られると、新たな紛争の芽となりかねない。
データを巡る政策協議が必要になっているのでは。
Q 各国政府の役割は何か。

A 日本政府はR&Dや文化産業の発展を支援しているが、それ以上に、この技術を活かす創造力やコミュニケーション力を育む教育が重要。
対外的には、こうした多様な価値観を交流させる場をセットすることが大事。

言いっぱなしでありました。

みなさん、また、いつか、どこかで。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。