熊本市議会で、育児中の女性市議が生後七ヶ月の赤ちゃんを連れて議場に入場した件が論議を呼んでいます。
私のFacebook上で見解を提示したところ、多くのご意見をいただき、概ね方向性が見えましたので、記事としてまとめてみたいと思います。
保育士付きで別室に預け、本業に集中すべき。なぜ「議場」に入れたがるのか。
結論としては、「保育士付きで別室に預けるべき」でほぼ決まりだと私は考えています。
沖縄県北谷町議会では、このような対応が全会一致で決定し、円満に解決しています。
宮里議員、娘と登庁 控室を保育スペースに 北谷町議会、全会一致で実現 – 琉球新報 – 沖縄の新聞、地域のニュース
どうして「議場」に入れたがるのでしょうか。
議員は、議論をするのが本業です。
その本業によって、教育、保育、子どもの貧困など、子どものための政策実現に邁進することが、私を含めた「子育て議員」に課せられた使命です。
議場は、その本業を行うための場です。
本業がおろそかになるような行動は避けるべきであると考えるのは、プロフェッショナルであれば当然でありましょう。
子どもが騒ぐことを止めることはできません。
乳幼児の議場への入場をいったん許可したら、例外なく許可しなければなりません。
ずっと泣き続ける赤ちゃんでも、すぐケンカする幼児でも、さらに全議員が子どもや孫を連れてきても許可しなければなりません。
そんな状態でまともな議論ができるとは、到底考えられません。
教育の問題、保育の待機児童、子どもの貧困など、子どものための政策の議論も阻害されるおそれもあります。
「子どもたちみんなのため」を考えるなら、我々議員は、本業に集中できるような議会環境の整備を進めるべきなのです。
すなわち「保育士付きで別室に預ける」、これでいいではないか、としか言いようがないのです。
「問題提起」なのか? パフォーマンスなのか?
なぜ、熊本市議会ではこのような解決法に進まなかったのでしょうか。
本人の主張としては、荻上チキさんによるインタビュー記事がわかりやすいです。
荻上チキ 赤ちゃんと議場入りした緒方夕佳・熊本市議インタビュー
ただ、冒頭の経緯説明で、既におかしいと感じられます。
最終的に緒方夕佳議員は長男を友人に預け、市議会は定刻よりおよそ40分遅れで開会しました。
預ける友人がいるじゃないか
ということです。
急に頼んだのなら、たった40分の遅れで済むでしょうか?
平日の日中、突然電話して、「ごめん、子どもを預かって」と言って、40分以内に対応できる友人がいるとしたら、相当に恵まれているんじゃないでしょうか。
「議場への連れ込みに失敗したときに備えて、あらかじめ頼んでおいた」可能性が高いのではないかと私には思われるのですが、違いますでしょうか。
預ける友人がいるのに、こんな騒ぎを起こすのはなぜでしょうか?
また、このTBSニュースの映像も「なぜ撮れたのか」という疑問が湧きます。
緒方市議が呼んだのか、それとも別の理由で、議長があらかじめ撮影を許可していたのか。
熊本市議会では、別の市議のパワハラ問題で特別委員会が設置されるまでの騒ぎになっていますので、その関連でマスコミが入っていた可能性もあります。
それを狙って、緒方市議が行動を起こしたという見方も可能です。
様々な角度から見て、パフォーマンスだったのではないかと受け取られても仕方がない状況です。
問題提起がしたかったのだ、という主張もありました。
しかし、こんなやり方での問題提起が必要なほど、熊本市議会は子育てに理解がないのでしょうか?
聞き及んだ話ですが、熊本市議会は、子どもを視察に同行させることを認めているそうです。
これはすごいことです。
確かに、視察により一泊二泊するときに、子どもの預け先を見つけるのは簡単ではありません。
子連れ視察を認めてもらえれば、子育て議員としては大変助かりますね。
熊本市議会、かなり子育てに理解があるではありませんか。
少なくとも、私の知っている範囲では、子連れの視察を認めているところはありません。
(他の事例がありましたら、お教えくださいm(_ _)m)
本当に、話し合う余地はなかったのでしょうか。
上記のインタビュー記事は、あくまでも本人の主張です。
公平を期すなら、熊本市議会の他の議員や市議会事務局のコメントも取るべきでしょう。
こういうやり方での問題提起が、本当に子育て議員のための環境整備につながるかどうかは疑問です。
逆に、この騒ぎのせいでそうした議論が忌避されるようになってしまい、議論が後退するおそれもあります。
また、議員は普通のサラリーマンに比べて、時間調整がやりやすいことも触れる必要があります。
文京区の成澤廣修区長は「育休区長」として有名になりましたが、特段制度として区長の育休を整備したわけではなく、地域まわりなどの活動を整理し業務を最小限にすることで「なんちゃって育休」の形を取った、と成澤区長本人のお話をお聞きしたこともあります。
普通のサラリーマンには、こんな時間調整はできません。
待機児童問題がなかなか解決しない中、議員が自分だけ特権を押し広げるようなやり方をどこまでやっていいものか、世間とのバランスを考えながら行動する必要があるのではないでしょうか。
海外の事例は本当に「子どものため」になってるのか
私のFacebook上の議論では、海外の事例を紹介した記事を引用した方もいました。
熊本市議会で赤ちゃん連れ議員の出席認められず…でも、世界にはこんなにいます
ただ、当初は議長から注意や警告を受けたり、他の議員や外部から批判を受けたりしています。
北谷町議会が円満解決したのとは、だいぶ異なる様子が伺えます。
本当に問題解決しているのか、子どもがみんなに歓迎されるようになったのか、既成事実を押し通しているだけなのか、この記事ではわかりません。
また、子どもを議場に入れることによるデメリットも、この記事では語られていません。
本業に影響が出てないかどうかは、この記事からはわかりません。
何より、それは本当に赤ちゃん本人のためになっているのでしょうか?
議場は、間違っても子どもにとって快適な環境とは言えません。
保育士付きの保育スペースのほうが、よほど子どもにとって快適でしょう。
なんのためにこんなことをするのか。
冷静に、子どもたちのためになるのはどういうやり方か、子どもの立場に立って考えるべきでしょう。
現職議員の皆様のご意見
最後に、Facebook上で表明いただいた、現職議員の皆様のご意見を紹介したいと思います。
◎尾名高勝・板橋区議
強行過ぎて、パフォーマンスと捉えられても仕方ないね。。。
多くの職場では、乳幼児を連れての就業はできないですから。
議会でも理屈は一緒。
保育所に預けるなり、議会に専用託児所を設けるなりは、事前にきちんと議論する話。
もし、板橋区議会でそのようなことがあれば、同様の事態になったでしょうね。
でも、板橋区議会で議員になって出産された方々はそんな強引なことはしてませんでしたよ。
*
国会には専用保育所がありますよね!?
かなり優遇されています。
これを地方議会に適用したら、こんなに待機児童がいる中で、果たして有権者の皆さんから理解を得られるのかなあ?
板橋区議会で三人の子どもを産んだ議員、最近第1子を出産して仕事復帰した議員に聞いてみたいですね。
*
中妻さんが、勇気を持って、この投稿したことがよくわかりました。
私は議場に乳幼児がいて、議員がほんわりとした気分で議論ができるとは思えないし、その母親(または父親)が、議会に集中できるとは思えません。
子どもを預ける保育所の不足や、議員特権の議会内託児所を設ける議論とは全く異なる次元です。
◎三雲崇正・新宿区議
私も幼児を傍聴席ではなく議場に入れるというのは一足飛びの行動だったと思います。
同時に、正論で議論をしていてもどうにも動かない状況があった場合、どういう行動をとるのか、ということかもしれませんね。少なくとも一石を投じたので、この方自身は批判を受けても本望ということではないかと思います。あとは、この問題提起をそれぞれの議会がどう受け止めるか、ということではないでしょうか。
政治家なのだから、問題解決の手法を工夫すべきという指摘はもっともと思います。
◎宮瀬英治・東京都議
子育てしやすい社会を目指すべき。 職場に子どもをつれてくることそのものを否定するものではない。 個人的には野外のイベント等に立ち寄る等ならかまわないと思われる。
一方で静粛さを求められる議会や式典において子どもをつれてくる事については
・行政側、議会側、主催者、参加者などすべての関係者に事前のコンセンサスが必要
・議員であれば、我先にではなく率先してルール作りをするのがリーダーの役割
・それらを無視して「わが子のみを優先させている」「統一地方選挙を前にしたパフォーマンスだ」と認識する人がいれば、 子育てしにくい社会へと逆行してしまう。
全体としてはマイナスです。
◎くろかわしげる・朝霞市議
一般的に仕事の場に子どもを連れて行くということのほどほどさの結論が必要なんだろうと思います。運動家みたいな人は拍手喝采なのでしょうが、
・働く女の人には、職場に赤ん坊連れて行けることより保育所使えよ、保育所整備しろよ、という反感。
・専業主婦には、だったら議員を、という反感。
両方引き起こしてしまうのではないかと思っています。行動主義は辻元清美さんみたいにうまく使わないとと思っています。
それより、今回の件で明らかになった、視察に子どもを連れて行くことを認めた、熊本市議会に拍手したい思いです。
◎志野誠也・海老名市議
(駒崎弘樹さんの記事「赤ちゃんを市議会に連れ込むことは、悪いことなのか?」に対して)
基本的に駒崎さんの意見は同意する事が多いのですが、この論は少し違うなぁと感じます。
議場に子どもを連れて入るのがどうこうよりも、議会の場まで連れてきて子どもを見てもらう環境があるかどうかではないでしょうか?
職場のどこまで子どもを連れて入っても良いのか?
例えば、お医者さんが職場に子どもを連れて入るのはありか? 診療なら良い? 手術は無理とか? 会議ならいいのか?って話になりませんか?
その話を突き詰めて職場に子どもと一緒に仕事ができる環境と理解がないとダメだとなれば、究極には保育園いらないってこと?そうではないと思います。
それよりも職場、この場合は議場に入れるのは無理でも託児できるなら。で、事務局に確認してベビーシッターを頼んで良いということだったようなので、議場の近くに場所を準備してもらう交渉をすれば良かったのではと思います。
それと正式な議運に諮らずとも議長に直談判はできたはず。無会派だからというのは理由になりません。
それと介助者の話が出てきてましたが、確か必要が生じたところは介助者の議場への入場を認めているところもあったと思います。
そういったところを丁寧にやっていくのが本来だと思います。
こういうところは今やってるドラマ、「民衆の敵」でもありましたが、急がば回れだと思いますね。
ちなみに海老名市議会は傍聴人のための託児も申出があれば認めています。保育士にお願いしてきてもらうそうなので、申出必須ですが。
まぁ、賛否両論なんでしょうが。
少なくとも私とはやり方とゴールが違うなぁという感じです。
いかがでしたでしょうか。
多様な議論があるのはよろしいかと思いますが、我々はパフォーマーとしてではなく、議論のプロとして住民の負託を受けているんだということ、議論によって子どもたちみんなのために成果を出すことが求められているんだということを、ぜひご理解いただきたいと思います。
中妻 穣太 東京都板橋区議会議員
1971年仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、家庭用ゲーム制作、ネットワークエンジニア、ITセキュリティエンジニア、携帯電話網エンジニア、ITコンサルティングなどに従事。2008年より、民主党衆議院議員・長妻昭事務所にて、ボランティアやアルバイトとして働き、2011年4月、板橋区議会議員選挙に初当選。現在2期目。
編集部より;この記事は、板橋区議会議員・中妻穣太氏のブログより2017年11月27日の記事を転載させていただきました。中妻氏に心より感謝いたします。オリジナル記事をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。