政治主導で「電波村」のコンセンサスは破壊できる

池田 信夫

長い間、冬眠していた電波の問題が、ようやく動き始めたようだ。日経新聞によると、規制改革推進会議が29日にまとめる答申で、価格競争の要素を含め周波数帯の割り当てを決める方式を導入するという方針を盛り込み、総務省は来年の通常国会に電波法改正案に提出するという。

ここまで来ても総務省が普通のオークションを拒否するのは、産経新聞によると「価格の転嫁で利用者料金高騰などの懸念が生じる」からだというが、これは逆である。本質的な問題は、オークション以外の方法では新規参入ができないということだ。

NOTTVの失敗でも明らかなように、総務省の「美人投票」で選ぶと、最初から結論が決まっており、既存業者が圧倒的に有利だ。オークションで決めると、こういう談合はできないから新規参入が促進されて通信料金が下がる、というのが欧米の経験である。

だから既存キャリアが反対するのは当然で、彼らの話をいくら聞いても意味がない。意見を聞くべきなのは、これから参入する業者である。たとえばUHF帯で200MHz開放できれば、今MVNOで電波を借りている通信業者が自前のインフラをもち、既存キャリアと違うイノベーションを生み出すだろう。そうしないと彼らは生き残れないからだ。

しかし無線の世界は官民癒着の「電波村」なので、業者のコンセンサスがないと総務省は動けない。これは原発でよく批判された「原子力村」と同じ構造だ。業者の側の情報量が圧倒的に多いので、役所は彼らの「規制の虜」になり、天下りで村の利益を守る。

抵抗するのは通信キャリアだけではない。2010年の700/900MHz帯の再編でもITゼネコンが反対し、ガラパゴス周波数にしようとした。これを私がツイッターで指摘したら、ソフトバンクの孫正義社長が「国際周波数と違うとiPhoneで4Gが使えない」と応じ、原口総務相がそれにこたえて周波数の割り当てを変更した。


これが民主党政権が「政治主導」で意味のある改革を実現した唯一の例だろう。問題は政治家でも官僚でも業者でもなく、彼らを呪縛する電波村のコンセンサスなので、孫氏のように「空気」を読まないプレイヤーが出てくると意外と簡単に壊れてしまう。

今回の電波改革には、官邸の強い意向があるようだ。オークションには時間がかかりそうだが、UHF帯の区画整理で損する企業はなく、電波法改正も必要ない。あの民主党政権にできたことが、最強の安倍政権にできないはずがない。