あれはアトランタオリンピックだったか、その次のシドニーオリンピックでの話だったと記憶していますが、男子バスケットボール決勝トーナメントでドリブル中に突如転倒しボール所持を失った選手がいました。
本来なら相手ボールのスローインとなるケースですが、審判は「転倒の原因が直前のタイムアウト中に相手チーム選手が飲んだドリンクの吹きこぼれである」と判断して転倒側チームのボール所持でスローインさせました
勿論、ルールブックにこの様な裁定は書いていません。従ってこの判定は現場レフリーの独断であると言っても良いかもしれません
バスケットのレフリー…特に国際審判員といった上級レフリーから学んでいると、この様な規則上存在しない、言わば「大岡裁き」的な判定についての苦悩を良く聞かされます。その中で、割と良く聞いたのが「完全ノーマークのダンクシュートは幾ら歩いてもトラベリングを吹くな」です
「リングの上でプレーする程のハイレベルなバスケットボールでノーマークのゴール前シュートを外す事は限りなく0%であり、守備側を完全に振り切ったシーンではどんなに助走をつけようと (スポーツの魅力のひとつである) 豪快なパフォーマンスを発揮する為に黙認すべきだ」……というのが、私がレフリーを学んでいた頃の基準でした
ただし、バスケットボールの国際化に伴い、こういった「不文律的な大岡裁き」が思うようにできなくなって来たことも事実だと思います
例えば、前々回のロンドンオリンピックでは完全フリーになったアメリカ選手が、4歩? 6歩? とにかく物凄い歩数で踏み切ってダンクシュートをしたところ、相手チーム(ある地区の王者)の監督から猛抗議を受けた事があります。
「判定の不文律さ」を学んだ私から見たらそれは…「地区王者の監督がみっともない真似はすべきではない」と感じ、抗議する姿をいぶかしく見ていましたが、ルールブック上はトラベリングであることは言うまでもないわけであり、結果的にこういったトラブルを回避する為に昨今の世界大会では「ルールブックを重視する判定」にシフトしつつある模様です。
それが果たして良い事なのかどうなのかはこれを読んだ皆さんに委ねたいと思いますが、「豪快なプレーが減り・判定上のトラブルが減った」以上2点については揺るがない事実だと思われます。
この「規則を裁定者の上に置く正義感」と「規則とは裁定者の判断の補助である」と捉える正義感とが交錯する事例が、先日熊本議会で起こった子連れ議員問題ではないかと思います。
女性議員が議会に子連れ出席求め 開会遅れる 熊本市議会(NHKニュース)
熊本市議会の規則では、本会議中はいかなる理由があっても議員以外は議場に入ることができない。
こういった規則があるならば、緒方議員の行動は明確なルール違反でありましょう。
一方、彼女の行動が議会運営にどのような影響があるのか?警察員や消防士といった安全や生命が直接影響される職種ならともかく、今回のケースは密閉された議会という空間内での話であり、また本件は「議会」という、そもそもに「ルールを作る場」で起きた話でもあります。
果たして豪快な“ダンクシュート”を決めた緒方議員の得点が認められるかどうか? 熊本市議会の判定に注目しています。