トランプ大統領の政権運営の本質は世襲経営者特有の“受け身”スタイル(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

ホワイトハウスFacebookより:編集部

大統領選挙時から現在までのトランプ大統領の動向から同大統領の政権運営スタイルが明らかになってきました。その主な特徴としては、トランプ大統領は比較的容易な案件は自ら淡々とこなす一方、極めて難易度の高い問題については殆ど自らの意思を示すことはなく、周囲のキーパーソンに実質的に対応を委任してきているということです。

大統領制度という制度上の仕組みとして大統領が議会に対して重要案件について好き勝手にできないことは当然ですが、現在までのトランプ大統領の内政・外交面での手堅い政権運営について、大統領選挙時からトランプ大統領のリーダーシップ(?)で世界が破滅するかのような予測をしていた有識者らは拍子抜けしているのではないでしょうか。

トランプ大統領は難易度が相対的に低い案件については大統領令・大統領覚書を通じて次々と実行してきました。その政策的な実績は積み重なっており、エネルギー業界に代表される個別のセクターに属する関係者への恩恵は大きいものとなっています。

しかし、実際にタフな交渉が必要となる案件、つまりオバマケアの廃止・見直しに関しては、ポール・ライアン下院議長に一任して失敗したあと、再挑戦時にはペンス副大統領・マッコーネル上院院内総務に事実上の丸投げをして再度失敗しています。オバマケアの廃止・見直しなど重要案件は連邦議会(特に共和党内)が分裂状態であることから、事態収拾のためには大統領のリーダーシップが発揮されることを必要とされていましたが、トランプ大統領は最後まで自らイニシアティブを示そうとしているようには見えませんでした。

一方、活発な動きを見せている外交的なイニシアティブについても同様であり、中東版NATO構想や自由で開かれたインド太平洋戦略などは、いずれも従来からの同盟国であるサウジアラビアや日本が主導して推進している枠組みであり、トランプ大統領自らが描いた各地域における戦略展開とは言えないものです。イランや中国に敵対するサウジアラビアや日本に乗っかる形で大風呂敷を拡げて、それらの枠組みに乗ったふりをしながら経済的成果を果実として回収するという形になっています。北朝鮮をめぐる一連の困難な対応も日本側の枠組みを踏まえつつ、中国に北朝鮮への責任ある対応を求め続けてきました。

つまり、内政・外交いずれにおいても重要で難易度が高い案件に関しては、常時パートナーとなり得る人々や国々に任せてみる、というスタンスを取ることがトランプ政権の慣例となっています。オバマ大統領のように自らの責任と能力でできもしないことにコミットしない、という現実的なスタンスだと言えそうです。そして、同案件の遂行に失敗したパートナーについて容赦なく切り捨てることで、自らの政治責任に関するダメージを最小限に抑えつつ、次の話題にテーマを移していくことに長けているように見受けられます。

トランプ大統領の統治スタイルは世襲のオーナー経営者・政治家に良くあるタイプのものであり、トランプ大統領は実質的に一代で巨大企業グループを構築した人物ではあるものの、その父もクイーンズで財を築いた不動産開発業者でした。この手のタイプの人々は自分の周囲には無限に自分を利用しようとする人間が集まってくるため、それらに対して簡単に登用したり切ったりすることを最初から所与のものとして受け入れています。筆者はトランプ大統領も自らの出自、そして長いビジネス経験を通じて同様の経営スタイルが染みついているのではないかと推量します。

したがって、トランプ大統領の本質は「受け身」にあり、今後も周囲の状況を良く観察した上で自らの利益になりそうな側にBETすることを繰り返し、勝負に負けそうになると速やかに撤退してパートナーを更迭する形をとっていくことでしょう。そして、パートナーにBETして彼らの構想に乗っかる形で大言壮語を繰り返しながら、実際にはその中で細かく点数を積み上げていく賢い経営を実施していくことになります。したがって、「トランプ大統領が何をしたいのか分からない・一貫性がない」と頭でっかちな有識者らは論評せざるを得ないことになるわけですが、トランプ大統領は既に自らのやり方でやりたいことを実行していると言えるでしょう。

ポピュリズム批判に常にさらされ続けているトランプ大統領ですが、トランプ大統領自身は冷徹な経営者であり、その任期の中で確実に米国民にとって必要な果実が手元に残されていることになるでしょう。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

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