認識も同意もしていない「規約」に拘束されるのか?

私法上の義務が発生する原因は、原則として4つだけです。契約、不法行為、不当利得、そして事務管理です。

不法行為は交通事故などで他人に損害を与えた場合で、従業員や子供の行為についても本人が責任を負うことがあります。

不当利得は、「法律上の原因」なしに得た利得(間違って振り込まれたお金など)を返還する義務を負うことです。

事務管理は、旅行中に空けていた家が台風で壊れそうになった時、隣人が応急処置をしてくれた費用を支払う義務を負うようなケースです。

契約責任は、当人(もしくは当人から委任を受けた代理人)が契約内容を認識して合意をしないと効力は発生しません。

これが、当人が認識していなくても義務が発生する不法行為等との最大の違いです。
2001年の最高裁判例が、中学生の子供が無断で利用したダイヤルQ2の利用料の支払い義務が親にはないと判断した根底には、「同意のない契約は成立しない」という原則が根底にあったものと考えられます。

ところで、少し前から私宛に某社から「プレミアム会費498円」の支払い請求が舞い込むようになりました。当初は、「そんなものに加入した覚えはないので間違いだろう」と無視していました。なにせ、連絡電話番号も書かれておらず、「お問合わせは(httpから始まる)サイトまで」となっていたので、アクセスするのが面倒でした。

そのうち「請求書発行手数料324円」が上乗せされた請求書が送られてきたので、怒りを覚えた私がサイトにアクセスして解約し、同社宛「私は会員になった覚えはない」とメール連絡をしました。

したところ、「2003年に弊社のオークションを利用しており、会員登録しないと5000以上の購入はできない。オークションを利用したことはないのか?」との回答が返ってきました。家人に訊ねてみると、当時はパソコンが家に一台しかなかったのでオークションで買い物をしたことが判明しました。

私は、「家人が利用したのは私にも管理上の不手際があった。しかし、私自身が同意していない契約上の義務を丸ごと私が引き受けるのは納得できない。不法行為とは違うのだから」と連絡し、何度かやり取りをした結果「弊社規約にはID等を利用した場合は名義人に支払い義務があると書かれている」との回答。

「ならば、ID等を第三者が悪用した場合も名義人が責任を負うのか?どこで線引をするのか?当時のパスワードは生年月日OKでそのまま使っていたので、その気になればいくらでも盗用できる状況だ」と私は主張しました。同社も逡巡した時期がありましたが、最終的には「弊社規約による。これ以上の回答はできない」というものでした。

相手が認識も同意もしていない規約を盾にとって「効力あり」とするのは、私法の大原則に違反するものです。管理義務違反で従業員や子供が他人に損害を及ぼした不法行為とは違って、あくまで契約責任なのですから。

思うに、某社は、トータルしても数万円なので訴訟までは起こさないと高をくくっているのでしょう。実際、簡裁に提訴しても(事案が複雑なので)地裁に回される案件なので、私としても正直言って面倒です。

ペーパレスでカード明細を確認していなかった私のズボラな性格が災いしたとも言えますが、このような少額被害はたくさんあるのではないでしょうか?
「規約に書いてある」で押し切られた一般消費者も少なくないと推測されます。
某社のカードを解約しなければ、今でも私は支払い続けていたことでしょう。

一人の被害が数万円でも、何万人ものユーザーから徴収すれば莫大な金額になります。
当初からリボ払いに設定されているカード同様、ネット上では少額を広く集めて莫大な利益を上げている業者がたくさんいます。

先般の民法改正では、「約款」が法律に明記されただけで、約款に基づく契約の効力までは踏み込んでいません。ネット上の売買等で、「約款」や「規約」をしっかり読まない人がほとんどであるというのが実情でしょう。

「広く浅く」で多数の消費者が食い物にされない手当が早急に必要と考える次第です。

荘司 雅彦
講談社
2006-08-08
今から威力を発揮する「歴史CD」付きです。

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。