今回、ご縁があり、「第8回全国・講師オーディション」(主催:志縁塾、協力:フジサンケイビジネスアイ、後援:TSUTAYAビジネスカレッジ)に審査員として出席してきた。主催代表の、大谷由里子さんは故横山やすしさんのマネージャーをつとめ、若手だったタレントを次々に売り出した敏腕マネージャーとしても知られている。
オーディションの流れと優勝者は
まず、オーディションのシステムについて紹介したい。9月からオーディションの予選会が開催されている。予選会は11月末に締め切られ、評価の高かった上位12名がファイナリストに選ばれる。場所は飯野海運が所有するイイノホールだ。講演会や学会発表に使用されることが多い。当日はほぼ満席だったので、500名近くが入場していたと思われる。
会場にいる一般観覧者、審査員、ネット中継によるWEB観覧者(今回は約15,000人)の投票によって優勝者が決定される。優勝者には100万円が進呈され、その他の表彰者にもメディアデビューや出版など多くのチャンスがある。実際に私のまわりには数多くの出版関係者やメディア関係者が座っていたので、注目度は高かったように思われる。
今回の優勝者は、中村経子さん(臨床心理士、兵庫県スクールカウンセラー)。大学院修了後、適応指導教室相談員として不登校児の支援に携わり、2002 年、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士」資格取得。以来15年間、スクールカウンセラーとして活動している。
親が子供に対して思うことは「元気で幸せであって欲しい」と思うこと。そのことを親のエゴではなく「大人の善意、希望だから当然」と肯定する。しかし子供は不満や苦痛を訴えにくくなってしまう。その言葉を聞きながら私は少々考えていた。「親は誰もが子供の健康を願っている」。しかし、国民の6%が何らかの障害を有するといわれている。ちなみに9日まで内閣府が定める障害者週間である。
1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(PARC判決)を宣言している。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピングへの警告である。実は私は障害者支援の活動をしている。国際障害者年に開始したので今年で35年目の活動となる。
このような社会貢献活動は決して簡単ではない。35年目でキリがいいので終了とも考えたが、中村さんの講演を聞きながら、「もう少し続けるべき」とのメッセージのようにも聞こえた。AIに仕事が奪われるといわれる昨今、スクールカウンセラーの仕事はやりがいがあり絶対に人工知能に置き換えられないと主張する。心からお祝い申し上げたい。
大きく変わってきた講師という仕事
昨年までは、出場者の多くが感動させるコンテンツづくりに腐心していたように感じた。ストーリーが出来上がっていてフィクションにも見えてしまう。今年の出場者は自分の経験を自分を言葉で語っており非常に好感が持てた。若干、出場者間のレベル差を感じたが、コンテンツはどれもよく練られていて見応えがあったように思う。
今回はゲストとして、税理士の石川和男さん、会社役員の黒岩禅さんが登壇した。この2人に関しては圧倒された。講演スキルに関しては秀逸以外の言葉が出てこない。参考までに、石川さんは、『「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣』。黒岩さんは、『結果を出しながら人を育てる上司の魔法』が代表作としてある。
石川さんは、アゴラ出版塾にゲストとして登壇いただいているが、講師力には定評がある。今回は、ちょっとした行動で人生が変わることを自らの体験をもとに語っていた。黒岩さんは、TSUTAYAで店長1位として表彰された実績がある。その時の事例をわかりやすく語っていた。圧倒的なスキルをもつ2人の講演が聞けただけでも価値があるだろう。
最近では、講師になりたい人が増えているという。この2人のレベルに達するには大変だと思うが、出場者には目標とする良いお手本になる。トークのレベルアップを目指したい人にとっても参考になるだろう。繰り返しVTRでチェックすることが必要だ。
私がコンサル会社に勤務している頃、講師はクリエイティブな仕事とは考えられていなかった。従来は実施要綱がコンテンツの要であり、講師が代わっても同じレベルで提供することに力点が置かれていた。ところが、昨今の講師は、カリスマ性はもとより、コンテンツが唯一無二の存在になりつつある。この水準に達するとコピーすることは難しい。
優勝者である中村さんが、AIの話をされていたが、講師業もAIに置き換えることが難しいことを認識した。大谷由里子さんが、活動を続けてきている講師育成が大きく花開こうとしている。天国で、横山やすしさんがこうつぶやいているかもしれない。「笑ったとこだけ使ってくれな」。講師業がますます注目される、その予兆を感じた。
尾藤克之
コラムニスト