M&Aは企業価値を低下させる恐れが大きい

近年、日本企業が海外の企業を買収するM&Aが盛んですが、M&Aの多くが企業価値を低下させるということを認識する必要があります。

1970年代における米国の第3次M&Aブームを牽引したのは、多角化を目指したM&Aでした。
しかし、その結果生み出されたコングロマリットの一株あたりの株主価値は上昇せず、1980年代の敵対的M&Aの対象になってしまいました。

この時のM&Aは、買収した企業を事業部門ごとに転売して利益を上げる、いわゆる解体型M&Aでした。その結果、株主価値画が増大した企業が多くあったようです。

このような事実から、多角化を目指すとコングロマリット・ディスカウントが生じると言われるようになりました。各事業部間の経営資源の配分が市場原理ではなく(派閥の力関係のような)組織の原理で決定されることで経営の効率化が低下することを、コングロマリット・ディスカウントと呼びます。

例えば、日本の総合商社は一時期「エネルギー部門だけで儲けている」と言われたことがあります。真偽はわかりませんが、そうだと仮定すると他の部門(例えば食品部門)の人件費等はエネルギー部門の稼ぎで賄われていたことになります。

もし食品部門が独立の食品専門商社であれば、厳しい市場原理にさらされて経費節減努力を行い骨太の体質になっていたのではないでしょうか?

イオンモールが相手であればガチンコ勝負を挑むセブンイレブンも、相手がイトーヨカドーだと共存のための調整をしてしまうかもしれません(それを防ぐためにホールディング制にしているのでしょうが…)。そんなことをすれば、商機をみすみす他のコンビニチェーンに取られてしまうのがオチです。

このように、多角化を目指すM&Aは危険性が高いので、よほど高いシナジーが得られなければやるべきではないでしょう。M&Aのために外部に払う費用等もバカになりませんし。

にも関わらず日本企業がやたらとM&Aを行おうとするのは、「M&Aの成立をもって担当部署や担当重役の功績にする」という風潮が根強く浸透しているからです。

野村投信に勤務していた頃、「今日のあの株の出来高は俺が作ったんだ」と自慢しているファンドマネージャーがいました。それを聞いた某若手社員が「それだけファンドから(証券会社に支払う)売買手数料が出て、ファンド価値が下がっていることをわかってないのかなあ~」と呆れボヤいていたのを憶えています。

「あのM&Aは俺が成立させたんだ」と自慢でもしようものなら、「莫大な費用をかけて企業価値を下げていることがわかっていないのかな~」と若手社員の間で囁かれるかもしれません。
やがて回ってくるツケを支払うのは若手社員の世代ですから。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。