君主はけちと言われても、あまり気にしてはならない。国民から搾取しないため、君主の座を守るため。貧しくなって見下されないため、お金に困ってお金の亡者にならないためだ。けちは君主の座を守るための必要悪である。
以上は、「君主論」(ニッコロ・マキアヴェッリ、藤田恭子訳 イースト・プレス)の008項目の引用です。
そういえば、ビル・ゲイツはちょっと高めの駐車場料金に不満を言い、安い昼食をとっていたと聞いています。
スティーブ・ジョブズも、アップルに復帰した時にすでに存在した豪華な社長室を敢えて使わいようにしたそうです。
私の知っている日本の有能な経営者の多くも、倹約家かけちであったと記憶しています。
すべてにおいて倹約家であることが有能な経営者の条件とは言えません。
ただ、一定の分野における倹約は、有能な経営者の必要条件だと私は考えています。
上記の「国民から搾取しないため」というのはとりわけ重要で、従業員の給料を上げずに経営者が贅沢をしていると、従業員としては搾取されている気持ちになって経営者に反感を抱きます。
「君主の座を守るため」以降は、いざという時の蓄えが必要だという意味です。会社経営にも不測の事態は発生します。
経営者が贅沢三昧をして「いざという時の蓄え」を崩してしまったら取り返しがつきません。
一方、会社経営に貢献する”必要な贅沢”もあると思います。
名もない中小企業の社長が、きちんとした身なりをしてベンツに乗るくらいは”周囲の信用”を得るために必要な場合も多いでしょう。
お得意様を立派なレストランで接待をしなければならない時もあります。
では、悪しき贅沢と必要な贅沢はどこで線引をすればいいのでしょう?
一つの基準が「税務上の経費」と認定できるか否かです。
得意先の接待などは間違いなく経費として認められるはずです。
もっとも、経費としては認められても不要な贅沢はあります。
ジョブズの例ではありませんが立派な社長室や、製品で勝負のメーカー等が一等地に立派なオフィスを構えたりすることです。
「立派なオフィスですね~」と銀行員や証券の調査部員はお世辞を言いますが、内心では「無駄なところにお金を使っている会社だな〜」というマイナス評価をするのが通常です。
経費として認められなくとも必要な贅沢は、先の例で挙げたようにきちんとしたスーツ等でしょう。見た目の印象がそのまま信用につながることはとても多いですから。
もうひとつの基準は、従業員目線でしょう。
高級外車を乗りまわてクルーザーを所有し、グルメ三昧のオーナー社長の下で働く従業員が次々と辞めていくという事件がありました。
番頭格の従業員に訊ねたら、「サラリーマン社長ならともかく、絶対自分の届かない地位の人がやっている贅沢は我慢ができない」とのことでした。
当の社長は「他社に比べれば十分すぎる給料を払っている」と言っていましたが、理屈では済まない問題でした。
「人間は感情で動く動物です」そして「従業員も人間です」。
経営者のみなさん、くれぐれもこのことを決して忘れないで下さいね。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。