来年、2018年6月15日からいよいよ住宅宿泊事業法(以下民泊新法)が施行される。この新法のもと、民泊サービスがどの様に日本社会に浸透していくのか非常に興味深いところだ。
これまでの民泊サービスは旅館業法によるものや、特区民泊によるもの以外(イベント民泊や農泊等は除く)は「無許可営業」となっているのが現状である。
厚労省が行った全国民泊実態調査(2017年3月1日公表)によると、民泊仲介サイトに登録されている情報のうち、明確に許可を受けて営業しているものはわずか16.5%に留まっている。
一般的な不動産賃貸では、自らが貸主となってアパートやマンション等を賃貸し、それを「業」とする場合でも「宅地建物取引業免許」は必要無い。もちろん民法や借地借家法等の関係法規は遵守しなければならないが、自らが貸主であればアパートを何棟何室賃貸しても何らの許可も必要としないのだ。
他方、これまでの民泊サービスは旅館業(宿泊料を受けて人を宿泊させる営業)の許可を受けなければ自分の所有している物件だろうが所有者から又貸し(転貸)の許可を受けている物件だろうが、前述した特区民泊等以外は「違法」となってしまう。
このように旅館業である民泊サービスと一般的な不動産賃貸業との間には「許可の有無」という大きな差があるのだが、民泊新法はこの「差」を取り除こうとしている。
民泊新法により「一定条件のもとであれば宿泊営業が届出で足りる」という枠組みは明らかに旅館業法の考え方と一線を画するものだ。
さらに象徴的なのは新法において都市計画法で定める用途地域の「住居専用地域」での民泊サービスを禁止しなかった点である。(※各自治体により条例で規制される場合はある)
上記からも分かる様に、民泊新法が適用される建物(部屋)はホテルや旅館等ではなく「住宅」なのである。つまり、これまでは「何の目的で貸すか」を問うことで旅館業に当たるとしていたものを「何を貸すか」に焦点を置くことで旅館業に当たらないとしたのだ。
今まで旅館業の許可を取ることに及び腰だった個人や法人が民泊サービス業に参入しやすくなるのは間違いない。結果的に、観光客の宿泊施設不足解消のみならず、人口減少等を背景にした空き家問題さえ民泊新法の施行等により包括的に解決される可能性すらある。
ただし、民泊サービスがその様な諸問題解決の旗手となるためには、新法で定める民泊提供日数の制限(年間180日)の緩和や強化、さらには地域に則した運用が円滑に進むことが前提となる。
それらを踏まえたうえで、民泊新法がしっかり機能し、民泊が不動産の新しい運用方法として日本社会に浸透するなら、不動産価値(価格)の査定に「民泊した場合の収益」の算定が加わることになるかもしれない。
さらには、特に首都圏で利便性の良い立地の住宅なら、その経済的価値が民泊新法施行前後で大きく変わることも十分考えられる。住宅を民泊サービスへ転用することに法令の「許可」を要しないという意味は決して小さいものではないのだ。
また、一般の賃貸住宅を民泊サービスへ転用した場合の予想収支次第では、不動産賃貸市場から数多くの物件が民泊業界に流入するかもしれない。
いずれにしても「民泊」が直接的に不動産の価値に影響を与えるか否か、間もなく明らかになるだろう。
最後に、民泊新法施行後も旅館業法に基づく民泊サービスが無くなるわけではないことを追記しておく。
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高幡 和也(たかはた かずや) 宅地建物取引士