【映画評】花筐 HANAGATAMI

東京国際映画祭でも上映 ©唐津映画製作委員会/PSC 2017

東京国際映画祭でも上映 ©唐津映画製作委員会/PSC 2017

1941年、春。佐賀県唐津に暮らす美しい叔母の元に身を寄せる17歳の俊彦は、美少年の鵜飼、虚無的な吉良、お調子者の阿蘇ら学友と共に“勇気を試す冒険”に熱中している。肺病を患う従妹の美那に恋する一方で、他の女友達とも仲が良く、青春を謳歌していた。しかし彼らの純粋で自由な日常は、次第に戦争の荒波に飲み込まれていく…。

唐津を舞台に太平洋戦争勃発前夜を生きる若者たちの青春群像を描く「花筐 HANAGATAMI」。原作は檀一雄の純文学で、大林宣彦監督が商業映画デビュー作である「HOUSE/ハウス」(1977年)より前に本作の脚本を書いていたというから、念願の映画化ということになる。ガンで余命を宣告されながらも渾身の思いで作り上げた169分の力作は、「この空の花」「野のなななのか」に続く、戦争3部作の最終章。だが、社会派の反戦映画というよりは、昭和カラーが色濃い夢物語のようである。怪奇趣味の幻想ホラー「HOUSE/ハウス」を彷彿とさせる演出が多く見られる本作は、実験的な映像詩のような印象を受けるはずだ。

あえて人工的な特撮や、死や血を意識した鮮烈な色彩は、昭和初期を生きる若者たちの刹那の青春と呼応しているのだろうか。俳優たちの演技も、リアルというより様式美に貫かれていて、観客の好みは分かれそうだ。しかし、どこか受け身の俊彦が叫ぶ「殺されないぞ、戦争なんかに!」や「青春が戦争の消耗品だなんてまっぴらだ」などの台詞を聞けば、まるでセルフオマージュのようなこの幻想絵巻が、実は現代社会をしっかりと照射していることに気付くのだ。「HOUSE/ハウス」で描いた狂乱のブラックユーモアはさすがに封印されているが、その分、豪華な曳山で知られる祭・唐津くんちによって、時代がどれほどきな臭くとも、生きることに執着する人間を肯定するメッセージが焼き付けられている。死を描きながら生をみつめる、まぎれもない“大林ワールド”だ。
【65点】
(原題「花筐 HANAGATAMI」)
(日本/大林宣彦監督/窪塚俊介、満島真之介、矢作穂香、他)
(原点回帰度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。