嵐山学園開設10周年を迎えて

社会福祉法人慈徳院「こどもの心のケアハウス嵐山学園」を開設して10年を経過致しました。嵐山学園は、いわゆる情短施設(情緒障害児短期治療施設)として設立されました。当時、日本に此の種のものは未だ30施設程度しかありませんでした。私は、虐待を受け心の病んだ子供達の治療に専門的に携わることが出来る精神科医の先生、看護師さんといったスタッフ等も含めたで設立しようと心に決め、10年前の12月1日実際に開設の運びとなったものです。

なぜ私がそう決心したかと言うと、それは言うまでもなく理不尽な虐待を受けた子供達を何とかしたいからであり、そしてまた、子供がある意味社会で最も恵まれていない社会的弱者であるからです。我が国の国民として自分自身が誇りを持ち、世界の国々あるいは人々と融和して益々この世を良くして行くということを背負って生きて行くべき子供達が、本来無償の愛を受けるべき親から虐待を受けている状況は余りにも痛ましいと思ったからです。

「社会貢献コストは戦略的投資である」とはマイケル・E・ポーター氏(ハーバード大学教授)の言葉ですが、私どもSBIグループは本業を通じ社会に貢献するだけでなしに、より直接的な社会貢献活動に取り組むべく15年前、児童福祉施設等への寄付を行うことを決定し全国の施設への寄付活動を実施して参りました。そして12年前、今日の「公益財団法人SBI子ども希望財団」の前身となる「財団法人SBI子ども希望財団」を設立したわけです。SBI子ども希望財団では、次の4つの柱を軸として一貫した取組を行っています。

第一に、いわゆる児童養護施設を中心に寄付をすること。第二に、その施設に従事している人達に対する研修活動に様々な意味で貢献すること。第三に、此の自立支援活動に対して援助すること。第四に、「オレンジリボン・キャンペーン」の趣旨に賛同し虐待を防ぐべく社内外への普及・啓発活動に参画すること--私どもはこのような4つの柱を軸に、支援活動に当たっています。

こうしたSBI子ども希望財団の取組とは違い、こどもの心のケアハウス嵐山学園を通じては、どのような子供達がどんな虐待を受け育って来たか、彼等が如何なる形で心理的影響を受けたり精神的な病に侵されたりしているか、彼等にどういう治療や育て方を施すことで普通の状態にして行くか、等々の虐待に纏わる実態を私自身がより直接的に知ることで初めて、本当の意味でSBI子ども希望財団の活動も出来ると思い、私の個人的な寄付で当該施設を埼玉県嵐山町に建てたのです。

そして10年の月日を経、此の嵐山学園の活動が社会でそれなりに認められて、11月「平成29年度埼玉県社会福祉事業特別功労者代表受賞者」として表彰状を授与されたのに続き、12月には天皇陛下より埼玉県の「平成29年度優良民間社会福祉事業施設・団体に対する天皇誕生日に際しての御下賜金」を頂くという栄に浴することが出来ました。これも偏に関係者の皆様の御支援の賜物と大変な喜びに与ると共に感謝致しております。

現在この嵐山学園は、上記した情緒障害児短期治療施設でなく児童心理治療施設として、精神的障害を受けた子供達に対し、より専門的に色々な療治を行い、彼等の心が受けた衝撃を和らげるべく日々努力しています。私は今、当該施設の来し方10年を振り返り、その行く末に思いを馳せ、今後如何なる形での発展を目指して行くか、その在り方に思い巡らせているところです。

今後の課題としては一つに、未だ治療が要せられる子供達の心が完全に安定するまで施設に置いてあげられるようにすること、及び一応の治療が済んで退園して行く子供達につき後のフォローアップを何らかの形で行うこと、が先ず挙げられます。そもそも入園してくる子供そして入園させねばならない子供が沢山いる中で、残念ながら中学校3年間を終え高校に進学するといった節目で退園させざるを得ない現況もあります。

次に、非常に重要な問題だと認識しているのが、親自体が虐待されていた経験を有していると、その親の子供も親から同じように虐待を受けるという悪循環です。此の「虐待の連鎖」も自身の経験から痛感し心を痛めているところがあって、何とか悪循環を断ち切る方法は無いものかと思い続けています。

それからもう一つ、施設の子供達の凡そ9割は実の父母あるいは継父母から様々な虐待を受けたというケースですが、また元の場所に戻らざるを得ないとなれば痛ましい過去と同じような状況が繰り返されるというケースが結構あります。自分の子を一度でも虐待した親に対して、どういう指導なりサポートをして行けば再び不幸が齎されることに繋がらないか、之も解決すべき重要な課題の一つです。

児童虐待防止については国、地方自治体、民間団体等が色々な取組を進めていますが、思い虚しく子供の虐待問題は増加の一途を辿っています。そういう意味で嵐山学園の現在の入所定員50名というのも、その拡張の必要性を考えるに至っています。このように課題は数多見受けられますが、何れにせよ一遍に出来るものではありません。児童虐待問題という様々な理由が複合的に絡み合う中に生じている深刻かつ難解な現実に向かい、次なる10年も時時課題を一つ一つ適切に処理して行きたいと思います。

今年一年、小生の拙いブログを御愛顧頂いた皆様には厚く御礼を申し上げます。
来年が皆様方にとって良い年になりますよう、心より祈念致します。

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