複雑化する社会。子供の人生の行く手には、さまざまな困難が待ち受けている。これからの時代を生き抜くために必要な要素とはなにか。先行きが見えない今だからこそ、真剣に考えてみたい。今回紹介するのは、『男の子の育て方』『女の子の育て方』(2冊とも大和出版)。子供の潜在意識に働きかける子育てがテーマである。
著者は、中野日出美さん。親のどのような言葉、態度、生き方が、その後の、子どもの人生に良い影響を与えるのか。あるいは、気づかないうちに、悪い影響を与えてしまうのか。豊富な事例にもとづき、わかりやすく解説している。
男の子にとっての”成功“って
――男の子を育てるにはなにが必要か。それは、男の子にとっての成功をイメージするのが早いだろう。いい大学を卒業して一流企業に入社。若くして管理職に抜擢され年収は1000万円を超えた。または、若いうちに起業し夢に向かって仕事にまい進。いまは、六本木のタワマンに暮らしながら、休日は趣味の釣り三昧、充実した日々を過ごしている。
「お金や社会的地位があれば、成功した人生と言えるのでしょうか?私は、これまでたくさんのクライアントさんの人生に接してきました。お金をたくさんもっている男性や、医師・弁護士など憧れの職業に就いている人も知っています。しかし、そのような男性が必ずしも成功しているとは限らないことを知っています。」(中野さん)
「もちろん、お金や社会的地位はあったほうがいいでしょう。しかし、人生で真の成功者になるには、それだけでは足りないのです。私が若い頃は、男の子にはいい大学を出て、バリバリ出世して、いい企業に就職して、いいお嫁さんと結婚して、子どもをつくって、定年後は、悠々自適な生活を目指させるというのが一般的でした。」(同)
――ところが、いまの時代は、少々事情が違ってきているようだ。終身雇用は崩壊し、一流企業に入社しても将来が保障されなくなった。
「それどころか、経済力を身につけた女性たちの、男性に求める条件は年々厳しくなっています。経済的にも、精神的にも自立した妻が子どもを味方につけ、夫は孤立して、家庭に居場所が無くなりつつあります。結婚生活を維持していても、熟年離婚されてしまう男性がものすごく増えているのです。現状は大変シビアです。」(中野さん)
「そこにもってきて、今の男性は大きな問題を抱えています。それは、精神的に傷つきやすいもろさと、コミュニケーション能力の低さです。現代の男性は驚くほど繊細で、傷つきやすいのです。そして、周囲と良好な関係を築くのを苦手としています。」(同)
女の子にとっての”成功“って
――かつて、女の子は、いい男性と結婚して(三高、可能なら玉の輿)に乗って、相手の親にもかわいがられ、元気な子どもを産んで良妻賢母になるように言われていた。
「娘の幸せを願わない親などいませんし、少しでも娘が苦労しないように、経済力のある男性と結婚し専業主婦になることと言われていたものです。しかし、本当に夫に愛され、守られ、安定した人生を送ることだけが幸せだと言えますか?今や状況は大きく変わりました。1人で家族全員を養える力のある男性は激減しています。」(中野さん)
「さらに女性の結婚率は年々低下しているうえに、結婚した3組に1組が離婚する時代です。つまり、結婚はもはや女性の永久就職先ではないということです。しかし、男女間の差別は少なくなったとは言え、パワハラやモラハラなどの問題はたくさんあります。」(同)
――ところが、たくましくなったように見える現代の女性ではあるが、心の中は昔とそう変わってはいないようだ。中野さんによれば、女性たちの心の奥深くには、「男性に幸せにしてもらいたい」という願望があると、次のようにつづける。
「自分の力で幸せになる。この考え方が必要なものだと思っています。自分の力なら、誰かに期待する必要もないし、裏切られることもありません。夫の船に同乗させてもらい、悠々と航海するはずが、途中で暗礁に乗り下船させられる心配もありません。女の子も自分の船をもち、好きなように航海していけばいいのです。」(中野さん)
「そのためには、女の子に白馬の王子さまを待たせてはいけません。おとぎ話の白馬の王子さまなど存在しない。現れたとしても、それは一時の幻想にすぎないのです。自分で幸せを手に入れるために馬に乗り、ほしいものを手に入れなくてはいけません。」(同)
――育てに共通しているのは「自立」と「逞しさ」になる。男の子であれば「打たれ強い自立した男」、女の子であれば「人生を自分で切り開く逞しさ」が理想とされている。あなたは、子供の潜在意識にどのように働きかけるだろうか。
尾藤克之
コラムニスト