話し方に気をつけているのに、なぜか嫌われてしまう。お客様に好かれない。上司から生意気だと思われてしまう。部下から恐いと言われる。プライベートでは、異性からモテない。人間関係を築けない…いったい何が問題なのか。これには、「言い方」「声の出し方」「表情」などが大きく影響を及ぼしている可能性がある。
今回紹介するのは、『CD BOOK〈引きつける〉話し方が身につく本』(明日香出版社)。著者は、フリーアナウンサーの倉島麻帆さん。NHKでディレクターなどを務めた他、NHK Eテレ「Rの法則」など多数メディアにも出演している。
自分のアンカーリングを作成する
人前で話すときに、「手のひらに人と3回書いて飲みこむとあがらない」と聞いたことはないだろうか?これは、アンカーリングという暗示法になる。
「アンカーとは、船が港に停泊するときに海に投げこむ碇のことです。アンカーリングとは、『船の碇をおろすように、心の中にイメージを定めること』を言います。イチロー選手がバッターボックスに入ったときに、肩のユニフォームをつまむしぐさをしますね。これも自分が最も調子が良かったときの状態を蘇らせるためのスキルです。」(倉島さん)
「心身の最高の状態をつくり出す儀式と考えてください。前田健太投手も左足からグラウンド入りするなどルーティン行動が多くて有名ですが、スポーツ選手はアンカーリングをうまく使っています。ビジネスパーソンでも使っている人を見かけます。」(同)
倉島さんは、自分なりのあがり防止策を用意することは非常に効果的だと語る。たしかに、一瞬で心が変わる。私は、講演やセミナーの前には深く深呼吸をしながら気持ちを整えるようにしている。私の知人は、挨拶後に上着を脱ぐ所作がアンカーリングになっている。
では、「アンカーリングのやり方」について解説したい。アンカーリングについて、研修会社などは「魔法の呪文」という表現を使うことがある。そして、各々の研修講師は「魔法の呪文」を所持している。あくまでも自分にスイッチを入れることが目的だが、アンカーリング作成のコースがあるくらいポピュラーなものなので覚えておきたい。
例えば、カフェやレストランでかかっていた音楽を聞いて、ふいに過去の記憶がよみがえった経験はないだろうか。これはアンカーリングの状態である。これが懐かしい記憶で心地よい思い出なら、その時の風景を思い出してみる。
(1)リラックスして目をつぶり、深呼吸する。人前で堂々と話している様子を、できるだけありありと。今、実体験しているかのように、五感を使ってフルでイメージする。
(2)感情がピークになったところで、自分なりのアンカーリングをする(ギュッと手を握ったり、耳を引っぱるなど)。そして、しばらくの間、そのピークの状態を味わう。
(3)目を開けてそのアンカーリングをやめ、全く別なことに意識を向ける。気持ちを切り替える(ニュートラルな状態になる)。
(4)再度、そのアンカーリングをすると、自動的にさっきのいい状態の気持ちやワクワクした感覚が蘇る。上手にいいときの状態が蘇ったら、アンカーリング成功。
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感から入る情報全てがアンカーになります。ぜひ音楽や香りも使ってみましょう。この曲を聴くと元気が出る、この香りをかぐとあのときの嬉しい感情が蘇るなどですね。そして、その曲を自分のテーマ曲にしたり、アロマを焚いたりしてみましょう。香りもアンカーリングに効果的なので覚えてください。」(倉島さん)
香りを活用してみる
嗅覚以外の五感(視覚·聴覚·触覚·味覚)は、脳の視床下部を通って大脳皮質につながり、その後、脳の中枢部である大脳辺縁系に到達する。しかし、「嗅覚」だけは、ダイレクトに大脳辺縁系へつながっているそうだ。
「やる気を起こす前頭葉を活性化する力があります。私はいつもお気に入りのアロマエッセンスを持ち歩き、ハンカチに数滴落として、活用しています。マグカップにお湯に入れ、エッセンスを落として吸入するのもお手軽でオススメです。」(倉島さん)
今回、紹介したアンカーリングは効果があるので、自分なりの型を見つけてもらいたい。本書には、今回紹介したような、簡単につかえるエッセンスが豊富に紹介されている。「話し方」は簡単には修正できないが、トレーニングである程度のコントロールは可能になる。「治す」のではない、コントロールすればいいのである。
尾藤克之
コラムニスト