大阪・堺。空振りばかりの古物商・小池則夫が娘を連れてお宝を探しにやってくる。そこで出会ったのは、落ちぶれた陶芸家の野田佐輔。二人はある大御所鑑定士と古美術店主にいっぱい食わされた経緯があり、“幻の利休の茶器”を仕立て上げ、仕返しと一攫千金を目論むことに。やがてそれは、それぞれの家族、仲間、大御所鑑定士だけでなく、文化庁までも巻き込む大騒動に発展していく…。
幻の茶器をめぐって、負け組の男たちが一世一代の詐欺を目論むコメディー「嘘八百」。騙し騙され、そして大掛かりなコン・ゲームへ。この流れは、古くは「スティング」、最近では「ローガン・ラッキー」などがあり、古今東西を問わず人気のジャンルだ。騙したり、詐欺を働くこと自体はもちろん良くない。だが主人公たちが基本的に善人で、腹黒い大物へのリベンジというモチベーションがあれが、観客はいつしか彼らを応援してしまう。大物狙いばかりで空振り続きのしがない古物商・則夫と、腕はいいのに贋作者に成り下がっていた陶芸家の佐輔。千利休を生んだ茶の湯の聖地・堺での、キツネとタヌキの騙し合いは、実力派の中井貴一と佐々木蔵之介、脇を固めるクセモノ役者たちの妙演でテンポ良く進み、軽妙な笑いとペーソスで飽きさせない。
うだつのあがらない中年男の悲哀と頑張りを軸に、さりげなく利休愛を盛り込むかと思えば、脇キャラの背景もしっかりと伝える。細部まで気を配ったこの物語が、オリジナル・ストーリーであることを何より高く評価したい。則夫と佐輔が、本物よりも本物らしい偽物作りに情熱を傾け、思いもよらない結果の果てに、自分たちが行くべき“ホンモノ”の道を見出すラストには、思わずにっこり。出演俳優の平均年齢高めのシニア向けムービー?いやいや、利休が愛したわび茶の味わいにも似た、大人のための渋い骨董コメディーだ。
【70点】
(原題「嘘八百」)
(日本/武正晴監督/中井貴一、佐々木蔵之介、近藤正臣 、他)
(軽妙洒脱度:★★★★☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。