比較例文でわかりやすく習得できる実践的文章本

荘司 雅彦

拙著「説得の戦略」P196で、アメリカの行動科学者シーナ・アイエンガーと社会学者のマーク・レッパーが行った実験を紹介しています。

高級スーパーマーケットの中に2か所の試食コーナーを設けました。そのうち1か所は6種類のジャムを、もう1か所には24種類のジャムを置きました。その結果、選択肢の多い後者のコーナーに立ち寄った人の3%しかジャムを買わなかったのに対し、選択肢の少なかった前者のコーナーでは30%もの人が買いました。

これは、選択肢が多くなると選択することにストレスを感じ、選択そのものを放棄してしまうという人間心理を証明した実験です。

あなたが男性で、美人コンテストの審査員になったとしましょう。

10人の美女の中から1人を選ぶのは(よほど好みがはっきりしていない限り)悩ましい状況に陥ることが多いでしょう。

しかし、目にの前に2人の女性を並べられて、「どちらが美人か?」と問われれば、即断できるだけでなくその理由も言えるのではないでしょうか?

「私は右の女性の方が美人だと感じる。目元が美しいからだ」というように。

女性が「イケメン男性」を選ぶ時も同様でしょう。

「キムタクと福山雅治のどっちが好き?」と問われれば、結論と理由がすぐに浮かぶはずです。

このように、最小単位である「2つに1つ」を提示することが、人間にとって最もわかりやすい比較方法なのです。

選択肢が増えてしまうと、即決で選べても理由が曖昧になってしまうものです。

「雰囲気が好きだ」というふうに。

二者択一はいずれかの良否とその理由を考える際に、人間にとって最もシンプルかつ効果的な方法なのです。

それを文章の書き方で実現したのが、「あなたの文章が劇的に変わる5つの方法」(尾藤克之著 三笠書房)です。

本書を手にした私の第一印象は、「二色刷りでとても読みやすく、どこから読んでも使えそうだな〜」というものです。

すべての例文が二者択一になっている訳ではありませんが、短文の例がスペースを空けて比較されていて、ストレスなく読むことができました。

一つだけ例を挙げると、①総務部の田中課長がカッコいい。②総務部の田中課長はカッコいい。の一文字だけを変えた比較文。あなたが田中課長だとしたら、どちらの方が嬉しいですか?

このように、ほんの一文字や一工夫で文章全体のインパクトを変える方法が、具体例をを示しながらふんだんに紹介されています。

著者の議員秘書経験によるものか、丁寧な文章例や相手を思い遣る文例もたくさん例示されています。

不採用のお祈りメールでも「お知らせをお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。採用担当としてもさまざまに顧慮しましたが、力が及びませんでした。」という文章が入っているだけで、会社の誠実さが伝わってきます。

スマホで文字を書くことが多くなったせいか、意味不明の文章や非礼な文章が多くなったように感る昨今、ご一読を強くオススメする一冊です。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。