10人に小さな発見を与えれば1000万人が動き出す

山口哲一さん著「10人に小さな発見を与えれば1000万人が動き出す」。
コンテンツとITのプロデューサにして、なんつーベタなタイトルですか。
と思いつつ読むと、音楽、テレビ、書籍、ニュース、IoTを横断して、コンテンツとデジタルとのこれからを解く。コンテンツからテクノロジーを見るという視線が同じなので、ぼくには読みやすい本です。

音楽はCD中心の市場。TVはNHK民放体制による非ネット囲い込みビジネス。書籍はマンガが中心。新聞は1000万部もの部数の宅配網。日本のコンテンツは特殊なガラパゴスです。

これを活性化するため、山口さんはコンテンツ系起業家支援の「Start Me Up Awards」を主催しておられる。ぼくも協力しています。デジタル特区CiPとの連携も強めたいと考えています。

そんな業界の中でも、山口さんは特に音楽とITとの乖離を懸念します。日本での音楽とITとの乖離は、米オースティンのイベント、サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)が30年かけてインディーズ音楽からIT系へと進化・拡大してきたのを見ると危機感が募ります。

かつてソニーがCBSを買い、東芝とEMIが一体化するなど、ハードとソフトは蜜月でやってきました。AppleもGoogleもAmazomも、ハード+コンテンツで覇を競います。ところがいま日本は録音録画補償金を巡り音楽業界とメーカが裁判で対立。互いに余裕がありません。

山口さんは、人の定義は「ホモ・コネクシャス」つまりネットにつながっている動物だとします。なるほど。ぼくをSXSWに呼んで「ヒューマニティの拡張」というお題で一席設けてくれたのは、このことだったんですね。今わかりました。

SXSWに呼ばれたぼくは、ヒューマニティの拡張とかけて「超人スポーツ」と解きました。そのココロは。AIとロボットでヒマになる人類に残されるものはスポーツで、それら技術に人類が求めるのは身体と精神の拡張だから。

そして本書は、次はウェアラブルだと期待しています。ぼくも期待し続けているんですが、これも課題はコンテンツですね。

最後に「コンテンツの価値は経済性だけでは測れない」「音楽が人を救ってもCDアルバムは3000円」と問いかけます。そう、そこが今日的なテーマです。

技術でコンテンツは生産も流通も消費も爆発的に量的な拡大をみせました。だが産業としては縮小傾向です。ではコンテンツの価値は下がっているのか?いや、量的爆発に伴い、世の中での重要性も増している。だがそれを測るすべがまだありません。

ITの価値をGDPで測ることへの異議をMITブリニョルフソン教授らも唱えています。総務省でもその疑問に応えるべく手法の開発に(たぶん世界で初めて)取り組んでいます。ただ納得のいく結論を得るのは簡単ではありません。

コンテンツと技術。この近くて遠い「と」が問題。MITメディアラボが属する学科はArt&Science。この「&」が問題。しばし問いかけ続けましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。