安倍政権は前人未踏の長期政権になりそうだが、これは本書も指摘するように「平成デモクラシー」の必然的な帰結である。それは1990年代から行われた小選挙区制や官邸機能の強化などの一連の政治改革で、イギリス型の二大政党を実現することが目的だったが、その結果は皮肉なことに安倍「一強」政権だった。
改革の設計図を描いたのは小沢一郎氏だった。『日本改造計画』には、その後の政治改革の構想がほとんど示されていたが、これを書いたとき自民党の最高幹部だった彼が、自民党を離党したのが間違いの始まりだった。もともと社会党のような万年野党をつぶすためだった政治改革を、社会党との連立政権でやったため中途半端になり、社会党は政権から逃亡して自民党との連立に走り、非自民連立政権は短命に終わった。
もう一つの官邸機能の強化に着手したのは橋本政権だったが、それを実現したのは小泉政権だった。しかしこれは多分に小泉首相の個性に依存した「個人商店」だったので、それを継承するはずの安倍第1次内閣は短期間で崩壊した。第2次内閣以降の安倍首相は、そのときの教訓を胸に刻んでいるはずだ。それは憲法改正や「戦後レジームからの脱却」などという観念論で政治は動かない、ということだ。
自民党支配を支えてきたのは政策ではなく、族議員や官僚機構を通じた利益分配である。その構造は小選挙区制になっても変わらないが、派閥が弱体化して、分配の権限は首相に集中した。安倍首相の政治手法はそれを利用した頻繁な解散や消費税の増税延期などの短期志向で、野党は対案を出せないまま安保法制や憲法改正などの「偽の争点」で分裂を繰り返している。
平成デモクラシーは、そのねらいとは逆に「一強多弱」の55年体制の劣化版を生み出してしまった。本書は日経新聞の政治記者が、この政治改革の理念とその挫折を舞台裏も含めて描いたもので、単なる政治史のおさらいではなく、この悲喜劇の原因を考えさせる。