今週のメルマガ前半部の紹介です。昨年後半、ベストセラーとなった一冊の本があります。
100万部を超えNHKでも特集が組まれたほど話題となったので、名前くらいは耳にしたという人も少なくないはず。元々は1930年代に書かれた児童向けの教育書を漫画化した本書ですが、21世紀の今も生き方に悩む人間は多いということでしょう。
実は「どう生きるか」というのは、「どう働くか」ということと表裏一体のテーマでもあります。「君たちはどう働くか」という観点から本書を読み解くと、そこには意外な風景が見えてきます。
書評「君たちはどう生きるか」
父親を亡くし、母親と二人で暮らす主人公のコペル君にとって、近所に暮らす叔父さんは頼れる存在です。日々の暮らしの中で様々な経験をし、時に悩みや疑問にぶつかるコペル君ですが、ある日、叔父さんから一冊のノートを手渡されます。そこにはコペル君が経験したこと、感じたことに対する叔父さんのメッセージが書き込まれていました。
読者はコペル君の目を通して、彼に起きた出来事とそれに対する叔父さんのメッセージを追体験することになります。
メッセージというのは、大人なら誰でも常識として知っているようなささいなことで、たとえば以下のようなものです(解説文は筆者の要約)。
ものの見方について
(デパートの屋上から道行く人を眺め、自身がまるで分子の一つであるかのように実感した主人公に対し)こどもは自分が世界の中心だと考えるものだが、実は世界に中心などはなく相対的なものだ。大人になっても自分に都合の良いことだけを見聞きせず、損特に関わらず正しく判断する視点を持つことはとても重要だ。
真実の経験について
(級友が教室でいじめっ子にいじめをやめさせた一件を目にして強く心を揺さぶられた主人公に対し)他人の目に立派に見えるよう心がけるだけでは本当に立派な人間にはなれない。人にどう見られるかだけを気にして、本当の自分がどんなものかというのがお留守になってしまっては意味がない。自分が心から感じたことや、しみじみと心を動かされたことをくれぐれも大切にしなくてはいけない。
本当の発見とはどんなものか
いろいろな学問は、人類の今までの経験をひとまとめにしたものと言っていい。そういう経験を前の時代から受け継いで、その上でまた新しい経験を積んできたから人類は進歩してくることができたのだ。偉大な発見がしたかったら何よりもまずモリモリ勉強して、今日の学問の頂上にのぼりきってしまう必要がある。そして、その頂上で仕事をしなさい。
人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて
(友人らを裏切ってしまったことを悔いる主人公に対し)痛みで体の異常を知るように、人は悩みや苦しみを通じて本来の人間がどういうものであるかを知ることができる。過ちを犯してしまったことを心苦しく感じるのは、正しい道に従って歩いていく力があるからだ。
“メッセージ”と言っても説教くささとか「〇〇すべし」みたいな必勝法めいた処世訓はゼロです。本書に一貫しているのは、とにかく経験すること、その中で何事かに気づき、あとは自分の頭で考え抜くことですね。
昔の偉人や聖人の言葉は知っていても、それを血肉に出来ている人は多くはないでしょう。そうした言葉が本来は人間の頭の中から生み出されたなまものであり、自身の経験や気づきを通じて理解して初めて生きた知識になるのだというのが根底に流れるメッセージだと筆者は考えます。
十代の若者はもちろん、子どものいる親世代、そして「第二のキャリア」を検討中の40代以降にも幅広く薦めたい一冊です。
以降、
「君たちはどう働くか」
なぜ今「君たちはどう生きるか」が必要とされているのか
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年1月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。