ウィキリークス代表アサンジ氏のエクアドル大使館での籠城は限界に

白石 和幸

5年間、籠城中のアサンジ氏(eldiario.esより引用

在英エクアドル大使館に籠城中のウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏に対し、英裁判所は2月6日に逮捕状を取り下げるか判明させる模様だと言われている。

英裁判所がこのような方針を持つようになったのは、エクアドル政府が彼を擁護する姿勢に変化が生じて来ていることと、アサンジ氏の体調も問題を抱えるようになっているからである。

以下にここに至らしめるようになったこれまでの過程を説明しよう。

アサンジ氏が英国のエクアドル大使館に身柄の保護を求めて入館したのは2012年6月19日のことだった。彼はスウェーデンで性的犯罪を犯したという罪状で2010年に英国で逮捕されたが、その後保釈となっていた。それを利用して、彼はエクアドル大使館に身柄の保護を求めたのであった。彼が警戒していたのは、一旦同大使館を出ると英国警察が彼を拘束してスウェーデンに送還し、その後スウェーデン政府は米国の要請に応える形で彼を米国に移送するのではないかと恐れたからであった。

では何故、彼がエクアドル大使館を選らんだか。当時のエクアドルはラファエル・コレア大統領の政権下にあり、ベネズエラそしてボリビアと同様に当時の米国を「ヤンキー帝国主義」と断定して反米主義を唱えていた。そこで、コレア大統領はアサンジ氏の身柄を保護することは反米主義を唱える具体的表現だと考えたようである。

コレア大統領のこの決断は当時のベネズエラのチャベス大統領が主導する米州ボリバル同盟(ALBA)の加盟国から称賛された。ALBAは反米主義を共通の思想としてベネズエラからの原油の安価な供給などの恩恵を受ける組織体であった。

コレア大統領自身はアサンジ氏を保護することによって、彼は自らを「報道の自由を守る指導者である」とALBAの加盟国の前に示したのであった。即ち、アサンジ氏が米国の軍事そして外交機密をリークして公にしていたことをコレアは支持しているということを公にしたわけである。

しかし、それから5年半が経過した今、事態は一変した。アサンジ氏にとって、大使館の小部屋での5年半の生活は非常に耐えがたいものになっていた。刑務所の囚人でさえ毎日中庭に出て気分転換も出来るが、彼の場合はそれもできない。

一方のエクアドル政府にとっても、彼を大使館に留まらおくことに弊害が生じて来ているのである。特に、昨年5月にエクアドルの元副大統領だったレニン・モレノ氏が大統領に就任してからは、この問題への打開策を積極的に見つける姿勢に変化している。

モレノ大統領はアサンジ氏を「ハッカー」と呼び、エクアドル国内での汚職問題についてウィキリークスを介して干渉しないように要求した。それに対し、アサンジ氏は「国内で汚職が見つかればウィキリークスで公表するのが務めだ」と言って、モレノ大統領の発言に抵抗する姿勢を示した。そして、ハッカーと断定されたことが不満だったようで、「汚職を公にする行為はハッカーではない。私はジャーナリストで情報の発行者だ」と言い返したという。

特に、モレノ大統領が彼の存在に我慢することに決定的な限度を感じたのは、アサンジ氏がスペインのカタルーニャ問題に干渉し、カタルーニャの独立を支持し、「内戦になるかもしれない」とツイートしたことであった。この行為に対して、スペインのラホイ首相からモレノ大統領にスペイン政府の不満が伝えられたという。

モレノ大統領はもともとカタルーニャの独立問題には反対しており、アサンジ氏がエクアドル大使館からツイッターを通して同国の外交方針に反対する発言はエクアドルの国家の威信に繋がるとして、アサンジ氏の大使館での籠城に早急に終止符を打つことを決めたのであった。

そこでエクアドル政府がプラニングしたのは、アサンジ氏に外交官としての国籍を付与したのである。地元紙『Universo』がその情報を掴み報道した。政府はそれを内密に進める予定であったが紙面で報道された為、アサンジ氏への国籍付与を昨年12月21日に行ったことを公表したのであった。

この時に彼の身分証明番号1729926843まで与えていたのも公表された。その為には英国政府の承認が必要だと判断して、マリア・フェルナンダ・エスペランサ外相に英国政府との交渉を一任していたのであった。

エクアドル政府は彼がエクアドルの外交官であるとして外交特権を使って英国から出国できるようにプラニングしたのであった。そして、エクアドル外務省はマリア・フェルナンダ・エスペランサ外相に一任して英国政府にその承認を求めて交渉していた。しかし、英国政府の姿勢は英国の法廷で正しい裁きを受けた上で出国すべきだとして、エクアドル外務省からの要請を却下したという。

しかし、英国政府もこの問題を更に長引かせるのも都合がよくはなく、スウェーデン検察もアサンジ氏に纏わる事件は終結したとしているため英国が彼をスェーデンに送還する意味はなくなっている。

この様なことから、英裁判所もこの事件の決着をつける時が来たと判断したようである。それが報道では2月6日に明らかにされるとしているのである。