米長期金利上昇の要因となるものを模索か

先日のスイスのダボス会議のパネル討論会での黒田総裁による「2%のインフレ目標ないし物価安定目標の達成を非常に難しく、時間のかかるものにした要因は数多くあるが、ようやく目標に近い状況にあると思う」と述べたことをきっかけに、買いドル売りが進み、ドル円は一時108円28銭まで下落した。このドル売りで米債も売られ、26日の米10年債利回りは2.66%と前日の2.61%から上昇した。

そして、今度はECB理事会メンバーであるクノット・オランダ中銀総裁が28日に、債券買い入れプログラムを「続ける理由は何もない」とした上で、ECBは同プログラムをどのように終了するかについてできる限り早く明確にすべきとの見解を示したことをきっかけに、29日にドイツの5年債利回りは2015年以来初めてプラスに転じた。ドイツの10年債利回りも0.69%と26日の0.62%から大きく上昇した。ドイツの10年債利回りはチャート上からは0.90%を目指して上昇してくることが予想される。

このドイツの国債の下落などから、29日の米債も売られ、米10年債利回りは一時2.72%をつけて、2014年4月29日以来の水準に達している。30日には2.73%を付けている。こちらはチャート上は3%まで節目らしい節目はなく、いずれ3%台に乗せてくるであろうと予想される。

今回の動きで注目すべきは、米国の国債が日本や欧州の金融政策動向に神経質になって売られていたという面である。相場であるので現実にどの材料に反応したのかは検証が難しい面はあるのだが、それでも日銀やECBの出口戦略の行方に注目が集まっているであろうことは確かである。

しかし米国債の下落、つまり米長期金利の上昇については、きっかけは何であれ、むしろ世界的な景気拡大、それを背景としての淡々と行われているFRBの正常化の動きがあってのものともいえる。むしろ、物価の上昇が抑制されている面はあったにせよ、米長期金利が3%以内に抑えられていたことの方が不思議であった。むろん米国債は金利面の動きだけでなく、安全資産として買われることもあり、リスク回避による動きなども米長期金利の上昇を抑制していたことも確かである。

結果として日銀やECBの動向に米国債が神経質になっているように見受けられるが、実際には米長期金利上昇の要因となるものを市場が模索しているという状況のようにも見える。つまり金利の抑制要因には鈍感となり、金利上昇要因に敏感となるという地合に変わってきているとみても良いのではなかろうか。29日にはFRBの物価目標ともいえる12月のPCEデフレーターが前年同月比で1.7%上昇と伸び率が縮小していたにも関わらず、こちらに対する反応は限られていた。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。