何故日銀は中期ゾーンの国債の買入を増額したのか

1月31日に日銀による国債買入において、残存3年超5年以下のオファー額を前回26日の3000億円から3300億円に300億円増額した。

なぜこのタイミングで中期ゾーンの国債の買入を増額したのか。日銀のこのようなオペでの金額の増減に関しては通常、下記のような説明をしている。

「国債買入れオペの金額やタイミングは、金融政策決定会合で決定された調節方針に沿って実務的に決まるものであり、オペの運営が先行きの政策スタンスを示すことはない。」

このコメントは金融政策決定会合における主な意見(2018年1月22、23日開催分)のなかにあったものであり、たぶん執行部(総裁・副総裁)からの発言とみられる。この発言は下記のようなある委員の意見に対するものであった。

「2%の「物価安定の目標」まで距離がある現状では、市場で早期に金融緩和の修正期待が高まることは好ましくない。追加緩和やコミットメント強化によって、目標達成に向けた強いスタンスを示す必要がある。超長期国債の買入れ減額が、金融政策の意図せざるシグナル効果を持ち得るのであれば、是正すべきである」

日銀はイールドカーブコントロールを行う上で、あくまで国債買入の増減によって微調整を行っているというのが建前となっている。しかし、現実には政策目標を量から金利に移したことで、量の面では限界も見えてきたことで、実質的にテーパリングを行っている。これが出口政策の一環として市場で認識されることは問題であると上記の発言者は示唆したと思われる。

しかし、今回の中期ゾーンの国債買入の増額は、まさにある意味、シグナル効果を意図したかのようなオペレーションともいえた。

ここにきての欧米の長期金利の上昇を受けて30日に10年債利回りは0.095%をつけて0.1%に接近した。昨年2月に10年債利回りが一時0.150%に上昇した際に、日銀は0.11%で指し値オペを実施した。このため、今回も日銀は長期金利上昇に備えて指し値オペを準備しているのではとの見方も出ていた。

ところがまだ10年債利回りが0.1%に達する前に日銀は予防的な手段に出たともいえる。ここにきて債券相場は先物主導で動いており、その先物には海外ヘッジファンドなどが売りを仕掛けているとも噂されていた。債券先物は7年債に連動することで、残存3年超5年以下の増額は債券先物を意識したものとの見方もできるかもしれない。

また2月1日に10年国債の入札が予定されていた。去年の2月2日の10年国債入札が低調な結果となったことも、10年債利回りの上昇を招いた要因となっていた。これもあって今回、10年債入札日前に予防措置の必要性を感じたのかもしれない。

今後欧米の長期金利が更に上昇し、日本の10年債利回りが0.11%を突破してくることもありうる。このため、指し値オペはそのために温存していたとの見方も可能か。

今回、10年債利回りが0.11%を上回っても指し値オペは実施せず、多少の長期金利上昇は黙認し長期金利のレンジを拡げ、YCCの微調整を行うのではとの見方もある。いずれそれも必要になるとは思うが、今回は日銀は抑えにかかると見ておいた方が良いのかもしれない。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。