ドッグフードを食用として買い求めるベネズエラの人々

ベネズエラの深刻な経済危機が世界的にこの1-2年繰り返し報道されて、今では余り注目を集めなくなっている。しかし、経済危機は今も続いている。昨年のインフレは2,600%を超えてしまったが、今年は21,000%にまで到達すると予測されている。しかも、1ドルの対価が3,000万ボリバレスになるというのである。

インフレ率が留まることなく上昇し続けるのは財政を賄うために紙幣を増刷しているからであるが、現在130兆ボリバレスに相当する貨幣が市場で流通しているとされている。

この窮状から抜け出るには、まずマドゥロ大統領を政権から引きずり下ろすことが必要だと見て、野党や隣国コロンビアのウリベ元大統領はベネズエラの軍部にクーデターを遂行するように煽っている。しかし、マドゥロ政権には多くの軍人が癒着して恩恵を受けて来ている関係で、軍部がクーデターを遂行することへの期待は市民の間では薄い。

政治家のそのような戦いをよそ目に、ベネズエラの市民の間で食料不足と高騰するインフレを前に、ドッグフードの需要が伸びているというのだ。マスコットの犬や猫と同じく市民もそれを食べるためである。

チャベス前大統領そしてマドゥロ大統領は「第四共和国の時に貧困者はドッグフードを食べていたが、第五共和国になってからはそのような事態はなくなった」と両大統領は仄めかして豊になったベネズエラを自慢していた。しかし、チャベスがほぼ20年前に起こした社会主義革命の結果は今憐れなものとなり、第四共和国の時よりも貧困層は増え物資は不足して多くの市民が食料難と資金難に苦しんでいるというのが現在のベネズエラである。

首都カラカス市内のショピングモールIpsfaにあるスーパー「セントラル・マデイレンセ」にある肉やソーセージ類を販売するコーナーに唯一冷蔵した状態で販売されているのはモルタデッラ・ソーセージに似た細長く、犬の姿がプリントされて包装されているソーセージである。それはドッグフードである。それを一旦手に取って買い物カートに入れてから、またそれを冷蔵ボックスに戻す人もいるという。

しかし、アニバル・フローレスさん65歳は躊躇うことなく、それをたくさんカートに入れた。取材記者に「このスーパーは他よりも可成り安く、1本あたり4万ボリバレスだ。だからまとめて10本単位で購入している」と答えた。彼もそれを食べていると告白し、「普通の料理の仕方で味付けして、ライスと混ぜることもできる。私の愛犬も私も美味しく食べている」と語った。

マリ・ロドリゲスさんは動物愛護家である。「好きではないけれでも、ライスや他の物を加えてドッグフードに代わるものとして食べている」と述べた。

プロベアというNGOで協力しているラファエル・ウスカテギさんは、ある出版物に一人の主婦が「攪拌した卵に混ぜて味付けして美味しく食べている」と語っていたことを掲載した。同じこのNGOに所属しているマリノ・アルバラドさんはカラカス市内のあちこちの市場を覗いた時に、それが安価なので、あたかもマスコットの犬の為に買っているかのようにして、それを多くの人が買い求めている姿を観察したという。

しかし、その中で数人は「タンパク質を摂取するために空腹に耐えている貧困者の為の代替品として購入しているのだ」とを告白したという。貧困者の為というのは実際には買っている本人とその家族の為であろう。

食料が不足しているのは多くの一般家庭だけではない。NGOプロベアが、ベネズエラの刑務所で栄養失調で亡くなった囚人が多くいると指摘した。また、昨年8月以降、栄養失調の子供が15.2%も記録されて、極限状態に到達していることも伝えている

栄養専門家のスサナ・ラファリさんが指摘しているのは、動物の食用になる部分を原材料に使っており、人用の食料にはなりうるということだ。しかし、動物の内臓などが使用されており非常に悪質の脂肪分を含有している。殺菌消毒していると言っても、原材料になっているものは将来的には健康上において問題を引き起こすものだ。動物を太らせるためにホルモン摂取や多量の脂肪分を与えている。これ等が原材料になるのだから危険だと彼女がいうわけである。

一方、栄養専門家ヤザレニット・メルカダンテさんは冷蔵で市販されているドッグフードは養鶏の軟骨、皮、骨、羽などを一般の食用には使えない部分を原材料にしていると指摘し、しかも、色々なものに汚染されている可能性が十分にあるとしてドッグフードを食用として食べることは非常に危険であると語っている

NGOプロベアは、政府が食料面において危険を承知でドッグフードを人の食用として販売しているのを黙認しているのは人権尊重を犯すものだといって訴えている。