バチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノ(2月1日)によると、韓国南部の平昌で開催される第23回冬季五輪大会の開会式(2月9日)にバチカン代表団が参加する。同代表団は5日から7日まで開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会にもオブザーバーとして出席するという。
バチカン放送電子版によると、バチカン代表団の団長は文化評議会のメルチョル・サンチェス・デ・イ・アラメダ次官補。バチカンは2016年開催された第31回リオ夏季五輪大会に代表団を派遣したことはあるが、IOC総会にはこれまで参加したことがない。
残念ながら、バチカンから五輪に参加する選手はいない。バチカンには聖職者らのサッカー・リーグ(Clericus Cup)がある。アルゼンチン出身のフランシスコ法王はサッカーの大ファンとしてよく知られている。
同開会式には世界から多数の首脳たちが参加するが、その中に安倍晋三首相も含まれる。VIP席で安倍首相と韓国の文存寅大統領とのシート・トークばかりか、バチカン代表団と安倍首相との対話の機会があるかもしれない。日本側はフランシスコ法王の訪日を要請している。平昌五輪開会式で安倍首相とバチカン代表団の会合が実現すれば、法王訪日要請も現実味を帯びてくるかもしれない。カトリック教徒の麻生太郎副総理も同席できれば話はトントン拍子に進むかもしれないが……(「日本カトリック教会の“悩み”」2011年1月18日参考)。
いずれにしても、バチカン代表団の訪韓目標は安倍首相ら日本代表団との会合ではない。狙いはカトリック教徒といわれる文在寅大統領との会合であり、できれば北朝鮮代表団との話し合いができれば、バチカンの五輪外交は大成功といえるだろう。
文大統領はフランシスコ法王宛てに一通の書簡を送り、法王に南北の仲介役を依頼したことはこのコラム欄でも紹介済みだ。フラシスコ法王は昨年7月、南北間の仲介役に南米エルサルバドル出身のグレゴリオ・ローサ・チャベス(Gregorio RosaChavez)枢機卿を任命している(「『南北の仲介』に動き出したバチカン」2017年7月12日参考)。
もちろん、バチカンの南北仲介は容易ではないだろう。国際キリスト教宣教団体「オープン・ドアーズ」によれば、北朝鮮には5万人から7万人のキリスト者が同国内の30以上の強制労働収容所に拘留され、虐待されている。北全土には約40万人のキリスト者が地下活動を強いられている。同団体が公表する宗教迫害国リストでは北朝鮮は毎年、最悪国トップにランクされている。北側が現時点でバチカンの仲介役を受け入れる可能性は少ない。
北朝鮮選手は今回、フィギュアスケートのペアとアイスホッケー女子、アルペンスキー、クロスカントリースキーの4種目に参加予定だ。韓国からの情報によると、北朝鮮東部に馬息嶺スキー場が2013年12月に完成した後、雪上競技選手のレベルが上がったという。
参考までに、馬息嶺(Masikryong)スキーリゾートは平壌から東へ175km、元山市に近いところにある。11本のコースが造成され、ゲレンデの下には、プール、カラオケバーなどが完備された高級ホテルがある。現地を訪問したオーストリア人によると、「5000人の観光客で一杯と言われたホテルは幽霊が出てきてもおかしくないほど、閑古鳥が鳴いていた。滑降コースでスキーを滑っている人を見なかった。乗ったリフトは今にも壊れそうな不気味な音を出していた。正直いって怖かった」という(「金正恩氏の公約と『現実』との深い溝」2016年5月27日参考)。
南北との対話を最優先する文政権が北側の要求を無条件に受け入れた結果、平昌五輪大会は「平壌五輪」化したと揶揄されてきた。北朝鮮は2月8日の「建軍節(朝鮮人民軍創建日)」に軍事パレードのため5万人を動員中と聞く。五輪後の南北間の対話の行方にも不安が伴う。平昌の開会式に参加するバチカン代表団には、五輪大会の全日程が無事行われるように祈って頂きたいものだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。