【再掲】トリチウムの海洋放出に残された時間は少ない

2018年2月07日の記事を再掲します。原田前環境相が「海に流すしかない」と発言したあと、小泉環境相が福島県漁連に「おわび」したため混乱していますが、トリチウムは環境基準以下に薄めれば害はなく、世界中で(日本の他の原発でも)海洋放出しています。

この問題は科学的には決着がついており、海洋放出以外の合理的な解決策はありません。法的には県漁連には海洋放出の拒否権はなく、東電はいつでも放出できます。放出できないのは、安倍首相がOKを出さないことが原因です。


福島第一原発を見学すると、印象的なのはサイトを埋め尽くす1000基近い貯水タンクだ。貯水量は約100万トンで、毎日5000人の作業員がサイト内の水を貯水タンクに集める作業をしている。その水の中のトリチウム(三重水素)が浄化装置で除去できないからだ。

これは水素の放射性同位体で、ごく微量のベータ線を出すが、人体に害はないので「汚染水」ではない。最近はマスコミも「トリチウム水」と呼ぶようになった。世界ではトリチウムは薄めて流すのが普通で、日本でも他の原発はそうしているが、福島第一だけができない。

それは福島県漁連が反対しているからだ。彼らもトリチウム水が危険だとはいわない。それが危険だという風評被害で魚が売れなくなるというが、そんな風評に科学的根拠はない。今まで他の農産物も畜産物もそういう風評を乗り超えてきたのだから、漁業だけ特別扱いする理由はない。

経産省の「トリチウム水タスクフォース」は、他の方法も検討した上で、2016年4月に「希釈して海洋放出」することがベストだという報告書を出した。しかし経産省には処理方法の決定権がないので、これは単なる意見である。放出するのは、東電の経営判断である。

原子力規制委員会の田中俊一前委員長は昨年、海洋放出の方針を示し、東電の川村会長も7月に「大変助かる。委員長と同じ意見だ」とコメントした。これに県漁連が「裏切り行為だ」と反発し、田中氏も「東電は地元と向き合う姿勢がない」と強く批判し、問題は暗礁に乗り上げてしまった。

しかし東電が地元と向き合えば、問題は解決するのだろうか。私が福島第一を見学したとき「薄めて流したらどうですか」と東電の幹部に質問したら、彼は「それは当社からはいえない」という。トリチウム水を流すこと自体は経営判断として可能だが、事実上の「国営企業」になっている東電は、国の方針なしで意思決定はできないのだ。

では誰が決めるのだろうか。田中氏は「原子力規制委員会は規制への適合性をチェックしているだけだ」という。彼の後任の更田委員長も今年1月、地元との話し合いで「意思決定をしなければならない時期に来ている」と述べたが、誰が決定するのかは明言しなかった。

更田氏によると「原発内に貯水できるのはあと2、3年程度で、タンクの手当に2年以上かかる」という。したがって今年中に結論を出さないと、貯水タンクが足りなくなる。今の状態でも地震が来たらタンクが破壊され、大事故が起こるおそれもある。

東電が決められず、規制委員会も決められないとすれば、委員会を統括する内閣が決めるしかないが、吉野復興相は風評被害を理由に放出に反対した。あとは安倍首相の決断しかない。オリンピック誘致のとき彼が約束したように「政府が前面に出て」福島の処理を進めるしかないのだ。残された時間は少ない。