新しい民泊法で6月から外国人観光客は大混乱する

内藤 忍

世界最大の民泊サイト、エア・ビー・アンド・ビー(エアビー)は日本国内で住宅宿泊事業法(民泊法)が施行される6月15日までに、違法な物件をサイトから削除するようです。

新しい民泊法では年間の営業日数を180日上限としており、自治体によってはさらに厳しい規制が条例で定められる場合もあります。この法律に基づいて営業すると、稼働率は最大でも50%ですから、収益性は大きく低下し、施行されると民泊から撤退する事業者が急増すると思われます。少なくとも賃貸物件を使ったエアビー事業は継続不能でしょう。

エアビーに掲載される物件は今後、合法の簡易宿所か、国家戦略特区にある認定物件、あるいは新法にのっとった民泊物件に限定されます。厚生労働省が2017年3月に発表した調査データによれば、現行法に適合した物件は全体のわずか16.5%ですから、6月以降の物件減少のインパクトはかなり大きいと予想されます。

これによってメリットを得るのは、既存のホテルや旅館、そして簡易宿所などの合法宿泊施設です。物件供給数が減ることで、宿泊価格の上昇や稼働率のアップが見込めるからです。

しかし、旅行者にとっては、宿泊物件の急激な減少は大きな問題です。価格の上昇だけではなく、宿泊予約が取りにくくなり、旅行計画がフレキシブルに立てられなくなるリスクがあります。今回の法改正が海外でどの程度認知されているかわかりませんが、外国人観光客には、6月の突然の変化で大きな混乱が広がるのではないでしょうか。

安全面や衛生面に配慮した宿泊施設の整備のための法整備は必要ですが、宿泊日数に上限を設けることには合理性を感じません。その目的は、宿泊者への配慮というより、民泊業者の締め出しを行い、ホテル旅館業界の既得権益に配慮することと思われても仕方ありません。

日本政府は、外国人観光客を積極的に取り入れ、インバウンド重視の観光政策を打ち出しています。であれば、民泊の利用を促進し、滞在期間の長期化を推進することで、その需要拡大できるはずです。

個人的には自分が運営している簡易宿所(写真)の収益にプラスになりそうで、良いニュースなのですが、日本の観光資源の有効活用と言う視点から見ると、戦略性のない新しい法律にがっかりしています。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所、株式会社資産デザイン・ソリューションズは、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また、投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2018年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。