【映画評】サニー/32

渡 まち子

冬の新潟のとある町。24歳の誕生日を迎えた中学校教師の赤理(あかり)は、突然、二人組の男に拉致・誘拐される。廃屋に彼女を監禁した柏原と小田は、赤理に「ずっと会いたかったよ、サニー」と呼び掛ける。男たちは赤理のことを、2003年にカッターナイフで同級生の首を切って殺害した当時11歳の少女だと思い込んでいた。特徴的な決めポーズから32(サニー)と名付けられた加害者少女を神聖化する柏原と小田は、赤理に好みのドレスを着せ、写真や動画をネットの掲示板にアップしていく。一方、赤理は何とか脱出しようと試みるのだが…。

所属するNGT48卒業を発表したアイドルで、きたりえこと北原里英が主演を務める「サニー/32」。未成年犯罪の殺人犯を神格化するカルト集団と、監禁された女性の物語だが、無論、アイドル映画ではない。何しろメガホンを取るのは「凶悪」などの白石和彌監督だ。共演にもピエール瀧、リリー・フランキー、門脇麦といった、クセモノの実力派が揃う。北原も極限まで追い込まれたのだろう、身体を張った演技で熱演している。

モデルとなったのは長崎県で2004年に起こった小学生による同級生殺害事件。本作では“もっともかわいい殺人犯”サニーを神格化し、それぞれの方法で偏愛する人々の暴走や狂気、その裏側の心の傷を描きつつ、衝撃的な事件の逃れられない“後遺症”を冷徹なまなざしで描いている。廃屋に加わる予想外の人々、訪れる流血と死、予測不能の展開は、人間の本性を露わにするものだ。同じように実在の事件をモチーフにしていても「凶悪」よりもより複雑な心理描写が盛り込まれているのは、登場人物の数だけサニーが存在するからだろう。これは14年目に動き出したダークで過酷な冒険物語だ。次第に正気を失う赤理を演じる北原の本気度がすごいが、登場した瞬間にストーリーを激震させる門脇麦に釘付けになる。
【65点】
(原題「サニー/32」)
(日本/白石和彌監督/北原里英、ピエール瀧、門脇麦、他)
(二転三転度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。