崩壊した官邸ロジック「過去との整合性を失った蔡英文総統削除」問題

渡瀬 裕哉

(源馬議員が質問主意書を提出したことで官邸・大手メディアも対応せざるを得ない事態に)

台湾の自由時報が報道した内容を「官邸・台湾総統宛てメッセージ変更は「日本の主権」を脅かす大問題」として、The Urban Folksで首相官邸のお見舞いメッセージから中華民国の「蔡英文総統」という文言が消えた問題を取り上げた後、事態が急展開を見せています。

具体的には、本稿がアゴラに転載されたことを受けて希望の党の源馬議員が質問主意書を提出する状況となり、菅官房長官が記者会見で「蔡英文総統」の文言を削除したことを正式に認める状況となっています。

「台湾地震のメッセージ、異例対応 「蔡英文総統」宛先を削除」(2月13日時事通信)

菅義偉長官「より広く台湾の皆さんへのメッセージとすることが適当」 台湾地震の見舞い文からの「蔡英文総統閣下」削除を認める(2月13日・産経新聞)

しかし、この「台湾の皆さんへ」のメッセージが適切とした菅官房長官の説明は明らかに過去に起きた地震災害等に対する官邸の対応と矛盾しています。首相官邸も苦しい火消しに動かれたのだと思いますが、無理な言い訳で逆に本件のおかしな特殊点が露呈しています。

台湾の地震に関する安倍総理大臣発馬英九総統宛て,岸田外務大臣発林外交部長宛てお見舞いメッセージ(2016年2月) 

安倍晋三内閣総理大臣によるエンリケ・ペニャ・ニエト・メキシコ合衆国大統領宛てメッセージ(2017年9月・首相官邸)

フィリピン南部における台風被害及びダバオ市内の火災を受けた安倍総理大臣のお見舞いメッセージの発出(2017年12月・外務省)

以上のように、日本国では相手国が被災した場合の安倍総理大臣によるお見舞いメッセージは格式を整えるために相手国の国家元首に宛てて発出するものとして扱われてきました。2018年2月の台湾における地震へのお見舞いのみを例外扱いとした扱いをしたことには改めて納得がいく説明が必要です。(それとも菅官房長官の説明のとおり、今後は外国に対する全お見舞いメッセージの宛先を国家元首ではなく国民宛てにするのでしょうか。)

中国政府が蔡英文総統の文言に抗議してきたことは明らかな内政干渉ですが、日本は台湾を国家として正式に承認しているわけではないので対応が難しいことは理解します。菅官房長官が「抗議を受けて修正した事実はない」と述べましたが、では今回だけ自発的に修正したということでしょうか。

中国外交部、日本政府公式サイトで「台湾総統」の呼称使用したことに強い不満(Record China)

日本政府として一度出した声明、しかも安倍総理大臣が発出したメッセージを「2018年2月の台湾の地震被害のみ」何事もなかったかのようにシレっと修正し、その上「過去の安倍総理大臣のお見舞いメッセージ」と整合性が崩壊した説明を行ったことで、やはり外圧に屈したのではないかという疑問がますます膨らむことになりました。

今後、源馬議員には現在の質問主意書の回答が示された後、再質問として「過去の首相官邸からのお見舞いメッセージとの整合性が崩壊していること」「中国からの抗議に対して政府としてどのような回答を行ったのか」についてもう一度問い質して頂きたいです。

現在、筆者はワシントンDCに滞在しているため、日本でどのような形でニュースになっているのかはイマイチ分からないのですが、現在米国トランプ政権下で中国に対抗するために台湾へのテコ入れが相当議論されています。

今回の訪米中、共和党保守派の会合で新しく創設された台湾系の有力シンクタンクの代表と会いましたが、台湾側のDCにおけるオピニオンの影響力が強まることで、東アジアにおける台湾問題のウェートは増していくことになるでしょう。その結果として、我が国も毅然とした態度が今後問われてくる可能性が高まることは確かです。この問題をあやふやなまま終わらせるべきではないと思います。


編集部より:この記事は、The Urban Folks 2018年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。