対馬海峡が「新たな38度線」とならないために

河井 克行

平昌で、文・韓国大統領、ペンス米副大統領とのフォトセッションに臨む安倍首相(首相官邸サイト:編集部)

古来より、朝鮮半島の情勢はわが国の独立と平和に甚大な影響を与えてきました。663年白村江の戦いから始まり、近代では1873年のいわゆる「征韓論」、1894年日清戦争、1904年日露戦争、1910年の韓国併合、そして戦後は1950年からの朝鮮戦争…。いつの時代も、朝鮮半島に中国、ロシア(ソ連)、欧米列強といった大国の覇権が及ぶことは日本の国家存立の基盤を損なう脅威であるとの認識が共通してありました。

そしていま再び、わが国の平和と繁栄を大きく揺るがす脅威が朝鮮半島からもたらされています。北朝鮮独裁体制による核とミサイルの脅威です。さらに、今回の危機をいっそう複雑にしているのが北朝鮮に“融和的”な姿勢を示す韓国の文在寅政権の存在です。残念ながら、平昌五輪は「スポーツの祭典」ではなく、金正恩に乗っ取られた「政治宣伝(プロパカンダ)の祭典」として、後世に伝えられることでしょう。

この五輪開催の機会をとらえ、安倍晋三内閣総理大臣が平昌を訪問され、金永南最高人民会議常任委員長との「立ち話」で、拉致、核、ミサイルについてのわが国の断固とした主張を述べたことは、「南」の“融和的”な姿勢との鮮やかな対比を北朝鮮に強く印象付けることができました。

日朝の最高指導部が言葉を交わしたのは、2004年小泉純一郎首相が金正日国防委員長と会談して以来、実に14年ぶりのことでした。また、文在寅大統領に米韓合同軍事演習の予定通りの実施を念押ししたことは、後から効く極めて重要な動きでしたし、安倍総理大臣とペンス米国副大統領があからさまに揃った動きを五輪開会式などで見せ付けたことも、韓国の無警戒な南北融和姿勢に釘を刺すうえで大きな意義があったと考えます。

ところがこの安倍総理大臣の念押しに対して、文在寅大統領が「内政の問題」と反発したと報じられました。これは日本が朝鮮半島の安定に果たしてきた役割をよく理解していない認識に基づくものです。半島危機に際して日本は、“傍観者”ではなく“当事者”にほかならないことを、韓国民と国際社会に強く訴えるべきだと考えます。1953年以降、朝鮮戦争は名目上の休戦がつづいています。

国際連合の旗の下で戦った米英仏加など16ヶ国からなる国連軍(UNC)の後方司令部はいまでも米軍横田基地に置かれています。また、横田、座間、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、ホワイト・ビーチの在日米軍七基地は国連軍の基地としても指定されているのです。半島の事態によっては、自衛隊を含め、日本は好むと好まざるに関わらず、“当事者”としての判断が求められるのです。

私が今後懸念する事態は、韓国・文政権が平昌五輪が終わった後も米韓合同軍事演習のさらなる延期を米国に要請すること、そしてそこから発生するであろう米韓関係と日韓関係の悪化です。そうなれば、韓国は北朝鮮に加えてさらに中露にも接近していくことでしょう。この日米韓連携の分断こそ、中国の企図するところです。

中国は、北朝鮮危機の解決に協力する見返りとして、①米韓合同軍事演習の段階的な廃止、②在韓米軍の削減、③在韓米軍の撤退、を米国に要求することが考えられます。まさにその第一段階である合同軍事演習の中止を、米国の同盟国であるはずの韓国から言わせることに成功すれば、中国と北朝鮮にとってはまさに「願ったりかなったり」の展開です。彼らはこの構図を熟知しており、韓国文在寅政権はこの流れに乗りつつあるように見えます。

南北首脳会談の開催は、核やミサイルの問題解決に何ら進展がないにもかかわらず、巧みな“政治ショー”としてあたかも緊張が低くなったかのように演出されるに違いありません。そしてその光景を、日本や韓国の一部の政党やメディアが「歴史的な南北対話の始まり」だとか、「朝鮮半島に雪解けの時来たる」とか言って持て囃すことも容易に想像がつきます。

韓国の20〜30歳代の有権者の多くは、文在寅政権の北朝鮮政策に対して批判的だとする世論調査の結果が報じられました。民主主義国家における外交・安全保障政策は、国民世論の支持なくしては進められません。日米同盟および日米韓連携の深化を求める世論喚起を、今後米国だけでなく、韓国社会に対しても積極的に行う必要があります。

韓国を日米韓の枠組に引き止めること、絶え間なく韓国の政府当局者と共に日米韓の緊密な協力の重要性を強調する声明を出しつづけることが大切です。

これからの数ヶ月間、日本の外交・安全保障は正念場を迎えると考えます。対馬海峡が新たな「38度線」になる事態は何としても避けなければなりません。

おりしも2月11日は「建国記念の日」でした。古代から綿々と受け継がれてきた日本と半島との関わり。先人たちは日本の国益を賭け、その時々の朝鮮半島情勢と格闘してきました。いま起きつつある危機を突破するため、強い指導力と鋭い戦略眼を持つ安倍晋三総理大臣のもと、私もしっかりと汗を流してまいります。