人手不足でも給料が上がらない理由

荘司 雅彦

昨今の日本は人手不足だと言われています。

平成21年度(2009年度)版労働経済白書に「1990年代以降の年齢別の完全失業率は、若年層において大きく上昇し、得に20~24歳では2003年に10%近くになった」と書かれています。

約14年前には、(年齢別とはいえ)完全失業率が10%近くもあったのです。昨今の完全失業率が3%前後であることを考えると、隔世の感があります。これほど人手不足が深刻化すれば賃金が上昇すると思うが普通ですが、なぜか賃金は上昇していません。

理由はいたってシンプルで、儲からない産業(介護、福祉、飲食)で人手不足が顕著であるのに対し、儲かる産業での人材需要が少ないからです。

もっと言えば、儲かる産業そのものが日本であまりにも少なすぎるのです。

事実、時価総額の大きな革新的企業や、ユニコーン企業のほとんどは米国と中国で占められています。

おそらく、この傾向は今後益々強まってくるでしょう。

2012年の総合起業活動指数を見ると、中国14.0%、米国12%、カナダ、シンガポール、イスラエル、インド、スイス、台湾、英国、韓国、ドイツ、フランスに次いで13番目の3.7%と、極めて低くなっています。

このままでは、日本には旧態然たる生産性の低い働き口ばかりになってしまいます。

IT革命で世界が変わり、アップル、グーグル、アマゾンといった新しい産業が莫大な利益を叩き出しており、それらの産業に従事する人材の給与は極めて高くなりました。

反面、旧態然たる企業の従業員の給与は低下傾向にあります。

政府による規制が厳しくて新しい産業が生まれにくい日本の状況を例えれば、農家が人手不足で困っているけど高い賃金が提示できないようなものです。まさに「働けど働けど猶わが生活(くらし)楽にならざり」の状況です。

利益率の高い儲かる産業が成長していく土壌を作るしか、各人の賃金を十分に上げる方途はないのではないでしょうか?

そのために重要なことは「規制緩和」と「起業に失敗したときの受け皿の確保」でしょう。

フィンテック分野も、金融庁による規制が厳しすぎるため日本ではなかなか育ちにくい状況にあり、いずれキャスティングボードを米国か中国に持って行かれてしまいそうです。

新卒一括採用と終身雇用制度は、起業に失敗したときの受け皿を失わせ、起業をするモチベーションを低下させています。

規制緩和と従来の雇用慣行の抜本的変更を進めることこそが必要と考えます。

中学受験BIBLE 新版
荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。