知財本部2018、コンテンツ会合スタート

中村 伊知哉

知財本部検証・評価・企画委員会、今ラウンド1回目のコンテンツ会合が開催されました。
座長を務めます。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/contents/dai2/gijisidai.html

委員は動画協会石川理事長、青学内山教授、吉本興業大崎社長、セガ岡村社長、カドカワ川上社長、NHK木田専務、NII喜連川所長、松竹迫本社長、ニッポン放送重村会長、写真著作権協会瀬尾常務、竹宮恵子先生、講談社野間社長、福井健策弁護士、ホリプロ堀社長、NTV宮島解説委員。

今回のテーマはコンテンツの海外展開。政府の施策を検証します。
2003年に知財本部が発足して以降、施策は厚みを増し、コンテンツの輸出額は2倍以上に増加しました。
成果は現れていると評価していいでしょう。

コンテンツの輸出額。
過去5年間(2011年から16年まで。放送は10年→15年)で、
映画は69→195億円、2.8倍
アニメは2669→7676億円、2.9倍
ゲームは2930→10667億円、3.6倍
放送は66→289億円、4.4倍。

ただし、コンテンツの世界市場5550億ドルに占める日本コンテンツの売上は141億ドルで2.5%。
マンガは世界の27%、ゲームは15%を占めるが、映画は1.1%、放送は0.4%、音楽は0.4%でしかなく、国内産業にとどまっています。
これを「伸びしろ」があるとみて、外へと促すのが戦略です。

総務省は放送コンテンツ輸出に注力し、海外売上の目標を3年前倒しで達成したため、本年6月の閣議決定で、2020年までに500億円に増加させるという強気な新目標を設定しました。
同時に、独禁法・下請法に関し、放送コンテンツの製作取引を適正化するガイドラインの整備・普及という地味で大事な行政も進めています。

経産省は字幕・吹き替えなどローカライズを支援するJ-LOP事業に5年で310億円を費やし、それによる海外売上の増加は2000億円に達したそうです。
他方、製作委員会に代表される資金調達方法について、出資・ファンド組成等の投資方式や国際共同製作など新手法の検証を進めています。

総務省・経産省は資金的支援による海外展開の促進を図る一方、取引適正化や資金調達多様化など構造変化を促す政策を講じています。
前者に注目が集まりがちですが、後者のほうが行政としては長期的にみて本丸であり重要な施策です。
こうした施策の充実を求めます。

委員からは重い指摘が相次ぎました。

瀬尾委員:クールジャパン政策はネーミングを含めコンセプトを再考すべき。省庁間で施策にダブりもあり、むしろ省庁横断の合同プロジェクトを作るべき。

重村委員:ジャンル別に考えるのではなく、全ジャンル一緒に展開すべき。

喜連川委員:ゲーム、アニメなど個別ジャンルでの政策評価よりも、プラットフォーマーが大きく動く中での世の中の動きをデータとして整理し、プロアクティブに動くべきだ。

野間委員:マンガ・アニメは米中韓では配信のほうが大ビジネスになっている。いずれASEANもそうなる。しかし有力なプラットフォーマーが存在せず、日本企業も弱い。

堀委員:純血にこだわりすぎている。日本のウィスキーは世界的に評価されている。日本酒を売るだけでなく、日本だけどウィスキーという発想が欲しい。欧米の先端ミュージカルが見られるとか、美術館でゴッホが見られる、という価値はアジアの人たちにとって高い。

堀委員は、日本の魅力の一つは「ブレードランナー」であり、都心の姿をそのままロケ特区として海外に映像で見せるべきとも提案されました。これは映画ロケ誘致のためのWGを別に走らせているので、そちらでも取り上げてみたい課題です。

また、日本でeスポーツが立ち上がらないことへの問題提起もありました。これは賞金規制を調整することと、関連団体を統一することの2大課題が整理されつつある状況をぼくから説明しつつ、知財本部でもテーマにすることを申し添えました。

住田知財事務局長:クールジャパンはポップカルチャーと古来の深い文化とにまたがる多層・多様なものになっており、整理が必要。もともと海外のものを混ぜ合わせたものがクールジャパン。各省は互いにいい競争をしているが協調も必要。役所の枠を超えた地域発のプロジェクトを作りたい。

クールジャパンのコンセプト見直し、非純血主義化、省庁横割りのプロジェクト編成、メディア構造変化を押さえた分析軸などベーシックな論点が出されました。eスポーツという新分野への言及もありました。

知財計画2018へと向け、議論スタートです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。