2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果になった。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延する。当初、コンサルティング会社は、人事制度を刷新することで、社員が生き生きとなり企業が変革することを強調していた。
EQ理論をご存知でしょうか?
成果主義は日本には馴染まなかった。未だに多くの企業において、導入の混乱や迷走が生じている。残念ながら成果主義人事制度による企業変革などは起きなかった。当時、私は人事コンサルタントとして活動をしていたが疑問を感じていた。その後、成果主義に対峙する理論としてEQがブームとなり注目された。
EQ理論提唱者のイェール大学のピーター・サロベイ博士、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士との共同研究をおこなっていた研究機関で、私は戦略とソリューション、営業を統括する立場にあった。その研究機関は買収され活動を休止する。EQブームのあとに出現した商品の多くは、理論を無視した稚拙なものが多かった。
今回は、『マンガでわかる怒らない子育て』(永岡書店)を紹介したい。著者は、アンガーマネジメントなどを専門にする、安藤俊介さん、長縄史子さんの共著になる。アンガーマネジメントは2000年以降に米国を中心に台頭してきた理論で、怒りをコントロールするための心理療法プログラムである。
情動(感情)全般をプロファイリングするEQ理論よりも専門特化しているのでわかりやすい。怒りの感情は、フラストレーションを高めて情動のパニックを引き起こす。自分にとって大事なものを遮断された時の感情に近い。怒りをコントロールすることは適切な人間関係を育むうえで必要であり、子育てに有効という論調も評価できる。
まじめなママほど苦しんでいる
子育てはイライラすることが多い。「朝食を遊びながら食べる」「お気に入りの服じゃないと着替えない」「おもちゃの取り合いでケンカを始める」など。「早くしなさい!」「いいかげんにしなさい!」と怒りたくて怒っているママはいないと、安藤さんは解説する。
「子どもに怒鳴っても仕方がないとわかっているのに、気がつけば怒っている、手を上げている。そんな情けない自分の姿にネガティブになり、さらにイライラ。大切な子どもを愛情いっぱいに育てたい、家族で仲良く過ごしたい、子育てをまじめにがんばっているママほど、『こんなはずじゃなかったのに』と考え込んでしまいます。」(安藤さん)
「怒りは誰もが持っている感情です。一見穏やかで感情を強く表に出していないだけで、怒りを感じていないわけではありません。みどりさん(画像右の女性)が説明していましたが、怒りの感情は6秒をピークに、あとは下降すると嘗われています。もし、頭に血がのぼるようなできごとに遭ったら、6秒ルールを試してみてください。」(同)
この6秒ルールは、EQ理論の6セカンズと同様の理論になるが、効果があるので覚えておきたい。怒りを感じると、相手に言い返したり、すぐに反応してしまうことが多いが、そのような時には6秒ルールを思い出していただきたい。
「6秒ルールについて、もう少し詳しく説明しましょう。私たちが怒っているとき、脳の情動を司る大脳辺縁系が活発に働いています。大脳辺縁系が活発になると、アドレナリンが分泌され体内で緊張した状態が生まれます。実はこの反応は、怒っているときだけでなく、不安や恐怖などのピンチを感じたときに起きている変化と同じです。」(安藤さん)
「怒りとは、自分の身を守るために欠かせない本能なのです。ところが、強い怒りに振り回されていると、冷静な判断力が低下し、衝動的な言動を取りやすくなります。大脳辺緑系の活性化を合図に、今度は前頭葉が働いて情動の働きにブレーキをかけようとします。このコントロールにかかる時間が6秒程度とされているのです。」(同)
漫画イラストによる読みやすい構成
数年前から、漫画イラストを使用し書籍が増えているように感じている。本書も、2~3割が漫画イラストによるものだが、本記事の画像のように人物が登場しストーリー仕立てで進行していく。また、抑えるべきところは抑えて、専門的記述も見られることから、より深い理解を得られる。
子育て中のお母さんは、仕事と子育てに追われ余裕が無い。そこで、怒りの感情はどうして芽生えるのかというメカニズムと、怒りを爆発させないための解決策を分かりやすく漫画イラストと図解で解説しているところが本書の特徴ではないかと思う。
なお、僭越ではあるが、この機会に拙著も役立つかも知れないのでご紹介をしておきたい。文章を使って子供にわかりやすく伝えられるようになるかも知れない。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)
尾藤克之
コラムニスト