北朝鮮の微笑み外交に関するTBS報道を検証する

藤原 かずえ

現在の北朝鮮の戦略的課題は、(1)核兵器完成までの時間稼ぎ、(2)経済制裁の早期解除、(3)日米韓同盟の分断であることは自明であり、これらの戦略的課題の解決のために行っているのが平昌五輪で展開している「微笑み外交 smile diplomacy」であると言えます。平昌五輪を政治利用により「南北融和ムード」を演出することで、(1)核兵器開発の目くらまし、(2)韓国からの経済支援、(3)米韓合同演習の中止を目論んでいるものと考えられます。

このための方策として北朝鮮が送り込んだのが、懐メロで韓国国民の感情を支配するための「北朝鮮芸術団」、世界の目をそらすための「美女応援団」、世界の北朝鮮への嫌悪感を払拭するための「金与正(キム・ヨジョン)」の3点セットであると言えます。これらの存在による【アジテーション】はあからさまであり、通常の【悟性】さえ有していれば「微笑み外交」が子供騙しの作戦であることを簡単に見破ることができると考えられますが、ここにマスメディアのサポートがあると必ずしも簡単にはいかなくなります。

今回北朝鮮がついてきたセキュリティホールは、目先の話題に喰らいつく不見識な日韓テレビメディアとそれに操作される情報弱者、及び融和一辺倒の文在寅大統領の存在です。実際、日本と韓国のマスメディアはパパラッチのように北朝鮮芸術団・美女応援団・金与正の一挙手一投足を追いかけ、ニュースとして高い頻度で繰り返し配信し、多くの視聴者がその存在を認知したと言えます。今回も日本のワイドショーは、ややネガティヴな視線を持ちつつも、一斉に長時間にわたってその存在を放映し、視聴者が世間で話題にするのに十分なトリヴィアルを植え付けました。たとえ、芸術団・応援団・金与正の存在を肯定しなくても、話題にのぼりさえすれば、それは北朝鮮の思うツボと言えます。深刻なのは、この話題がワイドショーのみならず一般のテレビニュースでも多く拡散されたことです。とりわけTBSニュースは芸術団・応援団・金与正を繰り返し執拗に報道し、北朝鮮のプロパガンダに大きく貢献したと言えます。この記事では、報道内容の一部を参照しながら、その実態を検証してみたいと思います。

北朝鮮芸術団と美女応援団の話題拡散

日本メディアは、金正恩が目眩ましに贈った「北朝鮮芸術団」と「美女応援団」にとびつき、連日にわたり高頻度で報道しました。三池淵(サムジヨン)管弦楽団を中心にして組織された「北朝鮮芸術団」は、「芸術」とは名ばかりの懐メロ歌謡ショーをパフォームする集団であり、そもそも五輪には不必要な存在と言えます。一方、北朝鮮のプロパガンダを随所に織り交ぜながら異様な応援を行う「美女応援団」は、真剣にスポーツに取り組むアスリートにとっては、集中力を散漫にする極めて邪魔な存在であると考えられます。ちなみに国際メディアは彼女たちのことをアイロニーを込めて「美の軍隊 The army of beauties」呼びますが[Business Insider]、日本メディアはその存在目的を曖昧にして「美女応援団」と呼んでいます。

北朝鮮芸術団、リハーサルのため江陵に到着(7日 10時49分)
6日、万景峰92号で韓国入りした北朝鮮芸術団の一行が、7日朝、リハーサルのため公演会場の江陵アートセンターに到着しました。午前9時半前、玄松月団長をはじめ、赤いコートを来た団員が次々と会場に入りました。<中略>チケットの倍率は200倍を超え高い関心を集めています。

 

北朝鮮の応援団が韓国入り(7日 11時41分)
平昌五輪の開幕を2日後に控えて、北朝鮮の応援団が韓国に入りました。<中略>229人の応援団をはじめ、テコンドー演武団、記者団など、総勢280人は午前9時半すぎに、南北出入り事務所に到着しました。ここで、今回の応援団のメンバーが、初めて報道陣のカメラの前に姿を現しました。おそろいのえんじ色のコートに身を包んだメンバーは、一様にリラックスした表情で韓国入りしました。<中略>毎回「美女応援団」と呼ばれて話題をさらっただけに、今回も高い関心を集めています。入国の手続きを終えた後、メンバーは平昌方面へと向かうということで、統一旗を持って歓迎する若者たちが待ち受けています。選手の応援にとどまらず、北朝鮮のイメージアップを図る役割も担っているだけに、彼女たちが大会本番でどんな振る舞いをするのか注目されます。

 

“異例五輪”の現場、北朝鮮 美女応援団も到着(7日 17時21分)
<前略>午前8時半、万景峰号から降りて先頭を歩き、黒い乗用車に乗り込むのは芸術団を率いる玄松月団長です。先月、視察のために韓国を訪問したときと同様、コート姿です。赤いコートを着た団員は、玄団長とは別に大型バスに乗り込みました。<中略>芸術団とは別に、北朝鮮の応援団は午前9時ごろ、軍事境界線にある南北出入り事務所に到着しました。229人の応援団をはじめ、テコンドー演武団や記者団など総勢280人の一行、そろいの赤のコートに身を包んだ応援団の女性たちの姿です。<中略>北朝鮮応援団の韓国訪問は13年ぶり4回目で、「美女応援団」と呼ばれ、今回も高い関心を集めています。<中略>「北朝鮮の美女軍団がホテルに到着しました。みんな黒い帽子、全員が赤いコートを着ています。胸元には、北朝鮮の国旗があります」(記者)その宿泊施設の中は、広々とした部屋にはウォシュレット付きのトイレや電気ポットがあり、快適な空間に。それぞれの部屋のテレビは設置されたままで、韓国の放送を自由に視聴できる状態になっているということです。<中略>午後には、芸術団の一行がそろいのコートから赤のトレーナーに着替えて移動しました。開会式まで2日、金与正氏の出席決定など、北朝鮮側の動きに、関心が高まっています。

 

平昌五輪で訪韓 北朝鮮応援団、歓迎晩さん会に(8日 2時48分)
<前略>赤いブレザーとスカートの制服姿で会場入りする北朝鮮の応援団の女性たち。7日夜、韓国統一省主催の歓迎晩さん会に出席し、韓国産のビールなどを手に笑顔を見せました。8日夜は、江陵で玄松月団長率いる芸術団の公演が開催されます。<後略>

 

北朝鮮選手団が入村式、「応援団」が演奏で激励(8日 11時29分)
<前略>午前11時に始まった入村式には、北朝鮮の選手団に続き、いわゆる「美女応援団」として関心を集める北朝鮮から来た若い女性たちも、マーチングバンド姿で一緒に入場しました。お揃いの赤いコート姿で、7日韓国入りした女性たちが「応援」を披露するのは初めてで、軽快なリズムの演奏に歌も織り交ぜるパフォーマンスで、自国の選手の善戦を祈っています。<後略>

 

北朝鮮の管弦楽団、公演始まる(8日 20時28分)
北朝鮮から派遣された三池淵管弦楽団の公演が、韓国の江陵で始まりました。<中略>観覧にはあわせて15万6000の応募があったことから、韓国の統一省はソウル公演の一般客の枠を500席から1000席に増やすと発表するなど、高い関心を集めています。

 

南北合同チーム「コリア」、初戦でスイスと対戦へ(10日 14時37分)
<前略>いわゆる「美女応援団」も会場に駆けつけるとみられるほか、北朝鮮の高官が観覧に訪れるかどうかも注目されています。

 

北朝鮮「美女応援団」は休日?リラックスした表情(11日 17時12分)
北朝鮮のいわゆる「美女応援団」は、11日は北朝鮮選手の試合がなく休日とみられ、昼食会場に向かう際にもリラックスした表情を見せました。<中略>11日は応援予定がないためか、皆さんいつもよりラフな髪型をしています。

 

芸術団、陸路で北朝鮮に戻る(12日 13時51分)
平昌五輪に合わせて韓国を訪問していた北朝鮮の芸術団が、ソウルなどの公演を終了し、12日朝、北朝鮮に戻りました。<後略>

 

北朝鮮応援団 雪山に初登場、競技延期 応援に異変?(14日 18時02分)
平昌五輪、今大会では現れる先々で注目を浴びる北朝鮮の応援団ですが、14日の応援では、思わぬ事態が起きました。雪が舞い落ちるなか、スキーの平昌会場に姿を見せた赤いジャージー姿の「応援団」。<中略>すかさず歌が始まりました。寒さをものともしない笑顔で、一糸乱れぬショーが始まります。12曲ほど歌い上げ、会場を温めますが、試合はなかなか始まりません。<中略>実はこの日、会場は強風でコンディションが悪く、結局競技は延期となりました。しかし、応援団は再び席に着いたのです。「競技は中止されたのですが、祖国統一のコールを続けています」(記者)選手たちが撤収するなか、応援団の歌はしばらく会場にこだまし続けました。<後略>

 

北朝鮮が派遣、テコンドー演武団 韓国・ソウルで最後の公演(14日 21時05分)
北朝鮮が平昌五輪に合わせて韓国に派遣したテコンドー演武団が、ソウルで最後の公演を行いました。<中略>先に公演を終えて北朝鮮に戻った三池淵管弦楽団のメンバーは金正恩党委員長と面会。金委員長は演奏の成功を称え、南北関係の改善にあらためて意欲を示しています。

 

北の応援団、南北共同発掘事業の展示会を見学(17日 19時55分)
平昌五輪のため韓国を訪れている北朝鮮の応援団が17日、平昌で開催中の南北共同発掘事業の展示会を訪れ、その後、大勢の市民らを前に演奏を披露しました。<中略>その後、応援団は展示会場の隣のグラウンドで演奏会を開き、1000人を超える市民らが集まりました。<後略>

TBSニュースは、スポーツを政治利用するために北朝鮮の独裁者が送ったプロパガンダ集団の着衣や一挙手一投足をまるでパパラッチのように密着して執拗に報じています。北朝鮮出国から始めて、韓国入国・歓迎晩餐会・入村式・開会式・公園・競技応援・休日など、全くニュース価値のない映像をドキュメンタリータッチで伝えます。そして、北朝鮮のプロパガンダにまんまと乗った一部の韓国人の存在を根拠にして「高い関心を集めています」「彼女たちがどんな振る舞いをするのか注目されます」「関心が高まっています」「現れる先々で注目を浴びる」などと紹介し、あたかも美女応援団が話題の中心であるかのように日本の視聴者を心理操作します。

特筆すべきは「毎回、美女応援団と呼ばれて話題をさらっただけに、今回も高い関心を集めています。」というナレーションです。毎回マスメディアが北朝鮮のプロパガンダに乗せられて話題にしている美女応援団に対して「毎回話題をさらった」と認定しているのには大きな疑義があります。そして、「毎回話題をさらった」ことを根拠にして「今回も高い関心を集めている」とする帰納原理には無理があります。マスメディアはまさに自作自演の話題造りをしているだけであり、普通の日本国民にとってみれば、その存在も知らなかった北朝鮮芸術団を無理やり認識させられ、積極的に見たくもない美女応援団を五輪報道の中で強制的に見せつけられているに過ぎません。

金正恩にしてみれば、芸術団や美女応援団が核問題から【論点回避 red herring / ignoratio elenchi / avoiding the issue】する上での目眩ましになれば所期の目的を達成したことになります。その意味で、TBSニュースは金正恩の目論見に大きく貢献していると言えます。勿論、報道されること自体を目的とする独裁国家のプロパガンダ集団に関心を持つよう、日本の視聴者をアジテイトする行為が公共の福祉に有害であることは言うまでもありません。

金与正のセレブ化

日本メディアは、金正恩が目眩ましに贈った妹の金与正の存在にとびつき、その一つ一つの仕草に好奇の目を向けながら連日にわたり高頻度で報道しました。中でもTBSの報道は異常で、北朝鮮から韓国に渡航して平昌に至るまでの行程をこと細かに繰り返しました。プライヴェイトの【開示効果 disclosure effect】を含む高頻度の報道により【単純接触効果 mere exposure effect】が生じて金与正の【対人魅力 Interpersonal attraction】が高まった可能性すらあります。

平昌五輪開会式、金正恩氏妹も出席へ(7日 17時21分)
<前略>「美女応援団」を擁する大応援団も7日、韓国入りしました。<中略>9日の平昌五輪の開会式。金正恩党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会第1副部長が出席することになりました。<中略>南北、米朝の動きをめぐり、開会式から目が離せません。

 

金与正氏、きょう午後韓国へ(9日 2時58分)
9日夜行われる平昌五輪の開会式に出席するため、北朝鮮から金正恩党委員長の妹、与正氏を含む代表団が9日午後、韓国に入ります。<後略>

 

金正恩氏の妹ら北朝鮮代表団、午後に平昌入り(9日 10時58分)
北朝鮮の金正恩党委員長の妹・金与正氏ら北朝鮮の高官級代表団22人は、9日、韓国入りします。<中略>北朝鮮が故・金日成席の直系家族を韓国に派遣するのは初めてで、その動静が注目されています。

 

金与正氏ら北朝鮮高官級代表団が韓国入り(9日 14時50分)
北朝鮮の金正恩党委員長の妹・金与正氏ら北朝鮮の高官級代表団22人は、9日午後、韓国に入りました。

 

金正恩氏の妹・与正氏、初の韓国入り(9日 15時06分)
北朝鮮の金正恩党委員長の妹、与正氏が9日午後、韓国入りしました。北朝鮮のロイヤルファミリーとしては初めての韓国訪問です。午後1時46分。北朝鮮の最高指導者・金正恩党委員長の実の妹、金与正氏が韓国に降り立ちました。故・金日成主席の直系の家族が韓国を訪問するのは、これが初めてです。ともに韓国入りした金永南最高人民会議常任委員長らとともに、韓国統一相らの出迎えを受ける金与正氏。背筋を伸ばし少し笑顔を浮かべながら入室しますが、年齢も序列も大先輩に当たる金永南氏から席を譲られると、満面の笑みを見せます。名目上は北朝鮮のナンバー2とされる金永南氏が席を譲ろうとしたのは、与正氏の持つ影響力の大きさを意味しているのでしょうか。<後略>

 

金正恩党委員長の妹・与正氏、平昌最寄り駅に到着(9日 17時21分)
金与正氏が、平昌最寄りの駅に到着しました。午後5時18分、SPに囲まれて金与正氏が姿を現しました。記者からの問いかけには応じませんでした。与正氏が姿を現した時点で、VIP口のドアが開いていたので、そのまま内廊下を通って、スムーズに車に乗ったものとみられます。<中略>与正氏がSPに囲まれて出てきました。ゆっくりと歩きながら前を見据えていました。やわらかい表情は一切ありませんでした。ただ、穏やかにも見えたので、少し緊張しているのかもしれません。

 

金正恩氏の妹・与正氏が韓国に(9日 17時54分)
金正恩党委員長の実の妹・金与正氏ら高官級代表団が、9日午後2時前、専用機で韓国に到着しました。<中略>空港に到着後、チョ・ミョンギュン統一相に誘導される形で貴賓室に姿を見せた与正氏。背筋を伸ばし、ほほ笑んでいますが、年齢も序列も大先輩に当たる金永南氏から席を譲られると、満面の笑みとともに謙遜する様子を見せました。今回の北朝鮮代表団の団長で、名目上は北朝鮮のナンバー2とされる金永南氏が席を譲ろうとしたのは、与正氏の持つ影響力の大きさを意味しているのでしょうか。<中略>8日行われた北朝鮮の軍事パレードでは、兄の金正恩氏が演説する後ろで見え隠れする与正氏の映像も公開されていました。自分の側近ですら次々と粛清してきた正恩氏にとって、妹の与正氏は心を許せる数少ない人物とみられています。一体どんな人物なのか。クラスメイトに囲まれてほほ笑んでいる少女。小学4年生、11歳ごろの金与正氏とみられる写真です。兄の正恩氏と同じ時期に、スイスの公立小学校に留学していた彼女は、今よりふっくらしていたことがうかがえます。その後、与正氏は、2011年12月に父親の金正日総書記が死去した際、涙を流す姿を報じられ、注目を浴びました。14年ごろからは、党宣伝扇動部副部長になり、現地視察にたびたび同行。軍事パレードなどの重要行事でたびたび姿を現していて、正恩氏を陰で支えているとみられます。そして、16年5月の党大会で中央委員になり、去年10月には、政治局員に次ぐ政治局員候補に昇格しました。2011年以来、スピード出世の道を歩んできた与正氏。五輪を舞台にした政治的な駆け引きが行われる中、どのような外交を進めていくのでしょうか。

TBSは、処刑や餓死が続く非人道的な独裁国家を運営する朝鮮労働党のプロパガンダ&アジテーション部門のディレクターという金与正の狂気のポジションの意味を明示することなく、報道価値の全くない金与正の仕草を記述するだけの表層的な報道に終始しました。これは、尊厳ある人間の命を弄ぶ金与正をあたかも普通の若い女性であるかのように視聴者をミスリードするものです。また、金与正が「北朝鮮のロイヤル・ファミリー」の一員であるといったセレブリティを連想させるような極めて不正確な表現も常軌を逸しています。金正恩ファミリーは徳をもって国を治める「ロイヤル・ファミリー」ではなく、恐怖をもって民を抑圧する「専横ファミリー」に過ぎません。気味が悪い程に何度も繰り返す金与正の韓国到着のニュースは視聴者に【単純接触効果】を与え、事態の本質を隠します。金正恩にとって最も好都合なのは、ステイクホルダー国のメインストリームメディアが「微笑み外交」を否定せずに繰り返し報道することであり、この点でTBSの金正恩への貢献度は高いと言えます。

南北融和ムードの宣伝

先述したように、金正恩の目的は、表層的に「南北融和ムード」を演出することで、(1)核兵器開発の目くらまし、(2)韓国からの経済支援、(3)米韓合同演習の中止ろいう各課題を達成することにあると考えられます。その意味では「南北融和」を喚起させるTBSの報道は願ったり叶ったりであると言えます。

平昌五輪開幕、開会式に金与正氏が出席(9日 23時35分)
9日午後8時、開会式がスタート。ついに開幕した平昌五輪。<中略>各国の最後には、韓国と北朝鮮による歴史的な南北合同行進。朝鮮半島の統一旗を、韓国の男子選手と北朝鮮の女子選手が共に握りました。北朝鮮のいわゆる美女応援団が、統一選手団の入場を激励しています。観客席の目立つ場所には、北朝鮮のいわゆる美女応援団が陣取り、南北の融和ムードを盛り上げます。<中略>各国のVIPと握手を交わす文大統領。そこには、金正恩党委員長の妹・与正氏、そして、金永南最高人民会議常任委員長の姿が。<中略>各国の入場を硬い表情で見守る与正氏らでしたが、南北合同行進が始まると、立ち上がり手を振り、さらに手をたたいて見送りました。

 

平昌五輪開会式は融和ムード、米朝接触は実現せず(10日 6時06分)
9日夜、平昌五輪が開幕しました。開会式は北朝鮮代表団も出席するなか、合同入場など南北融和を前面に押し出したものとなりました。<中略>金正恩氏の妹・与正氏が、笑顔で韓国の文在寅大統領と握手します。そして、各国の行進の最後に登場したのは、統一旗をかかげた南北の合同選手団でした。北朝鮮のいわゆる美女応援団、統一選手団の入場を激励しています。与正氏らも合同行進に手を振ります。<後略>

 

北朝鮮、金与正氏らの平壌出発映像を放送(10日 9時53分)
北朝鮮の国営メディアは9日、平昌五輪開会式参加のため韓国入りした金与正氏らが平壌を出発する際の映像をその日の夜に放送しました。マーチングバンドが迎える中、金永南最高人民会議常任委員長が到着し、赤絨毯の上を歩きます。さらに金正恩党委員長の妹、金与正氏ら他の代表団メンバーも加わりました。<後略>

 

金正恩氏の妹・金与正氏ら、韓国大統領と会談(10日 11時47分)
<前略>冒頭、お互いが穏やかな様子で握手を交わしました。北朝鮮の最高指導者の肉親が韓国を訪れ、大統領府に足を踏み入れるのは史上初めてのことです。事実上の南北首脳級ともいえる今回の会談ですが、与正氏ら北朝鮮側は、関係の改善に向けた兄・金正恩委員長のメッセージを伝達するものとみられ、その場合、文大統領の北朝鮮訪問を打診する可能性もあります。<中略>9日の開会式では、与正氏らと文大統領が笑顔で握手を交わしたほか、大統領府に招待しての異例の昼食会など、融和ムードが演出されています。<後略>

 

北朝鮮、韓国大統領に訪朝を要請(10日 20時47分)
「きのうは寒いのに大変じゃなかったですか?」(韓国 文在寅大統領)
「大統領がいろいろ気遣ってくださったので大丈夫でした」(北朝鮮 金与正氏)
平昌五輪のため韓国を訪問中の金正恩党委員長の妹・与正(ヨジョン)氏ら北朝鮮の高官代表団は文大統領と会談しました。与正氏は、金委員長の「特使」として来たと明言し、南北関係を改善したいという親書を手渡した上で、文大統領に早いうちに北朝鮮を訪問してほしいと要請したということです。文大統領は、条件を整えて進めていきたいと応じ、訪朝に前向きな考えを示しました。<中略>
「金与正氏が晩餐会の会場に到着しました」(記者)
会談のあと、代表団は五輪会場の江陵で晩餐会に臨みました。<後略>

 

女子アイスホッケー、南北合同チームが初戦に挑む(11日 0時33分)
<前略>10日午後9時に始まった試合ではリンクを取り囲むように陣取った北朝鮮のいわゆる美女応援団が歌や踊りを披露しました。<中略>北朝鮮の金永南氏と金与正氏、それに韓国の文在寅大統領も観客席から声援を送りました。<後略>

 

金与正氏、文大統領と北朝鮮芸術団公演を観覧へ(11日 17時34分)
<前略>公演には、与正氏をはじめ序列ナンバー2の金永南氏ら北朝鮮の高官代表団と共に、文在寅大統領も観覧する予定です。<中略>五輪を活用し、融和ムードの中、繰り広げられた与正氏らの外交。代表団は11日夜、専用機で出国する予定です。

 

北朝鮮芸術団の公演、金与正氏と韓国大統領が鑑賞(11日 20時28分)
<前略>ソウルの国立劇場は、開演前に与正氏らが姿を現すと大きな拍手に包まれました。北朝鮮の三池淵管弦楽団は、江陵でのステージと同様に南北ゆかりの曲などを披露し、与正氏らも観客と一緒に演奏を聴き入っていました。<後略>

 

金与正氏ら北朝鮮高官級代表団、訪韓を終える(12日 0時20分)
北朝鮮の金正恩党委員長の特使として平昌五輪に派遣された妹の与正氏ら高官代表団は、3日間の訪韓を終え北朝鮮に帰りました。<後略>

 

“ほほ笑み”外交、対応迫られる韓国(12日 11時18分)
<前略>北朝鮮への訪問を要請された文在寅大統領は、今後どのように対応するのでしょうか。11日夜の芸術団公演に与正氏らと文大統領がそろって姿を現すと、劇場内は拍手に包まれました。さらに、芸術団の玄松月団長が自ら祖国統一への思いを込めた歌を披露するというサプライズ演出は、北朝鮮の「ほほ笑み外交」を象徴する一幕でした。<後略>

 

“ほほ笑み外交” 韓国・文大統領の訪朝 実現は?(12日 17時11分)
北朝鮮が呼びかけた韓国・文在寅大統領の訪朝ですが、実現の見込みはあるのでしょうか。<中略>文在寅大統領はもともと、北朝鮮に融和的ですし、訪朝したいというのが本音です。今回も、金与正氏ら高官代表団を丁重にもてなして南北の融和を最大限にアピールしました。<後略>

 

金正恩党委員長、訪韓の与正氏らから報告受ける(13日 9時20分)
北朝鮮の国営メディアは、金正恩委員長が平昌五輪のために韓国に派遣した妹の与正氏や金永南最高人民会議常任委員長ら高官代表団と面会して、具体的な報告を受けたと報じました。金委員長は、韓国側の対応に感謝の意を示し、「和解と対話の良い雰囲気をより一層、昇華させて、立派な結果を積み上げていくことが重要だ」と述べ、南北関係の改善にあらためて意欲を示したということです。また、韓国での公演を終えた三池淵管弦楽団のメンバーとも会い、公演の成功を称えたということです。

驚くべきことに、TBSの平昌五輪開幕を伝えるニュースの副題は「開会式に金与正氏が出席」でした。これは、金正恩が送り込んだ目眩ましを五輪のメイン・イヴェントとリンクして報じるという常軌を逸した報道であると言えます。

この金与正の微笑み外交を通してTBSは一貫して南北融和を繰り返し強調しました。子供でもわかることですが、この南北融和は、核問題に韓国側が触れないことで成立しているだけの見せかけの南北融和に過ぎません。すなわち、この南北融和は、北朝鮮が韓国に無理難題を押し付けて拒否させれば、いつでも解消可能な「ムード」に過ぎず、二国間における南北融和の主導権は100%北朝鮮にあると言えます。このような無意味な南北融和ムードに笑顔を見せている文在寅大統領は国を滅ぼすかもしれません。金与正から報告を受けた金正恩が満面の笑みを浮かべているのは頷けるところです。

見せかけの南北融和に疑義を示さないばかりか、何の根拠もない金与正と文在寅の肯定的言動や何の保障にもならない金与正の融和的表情を強調して融和ムードを演出するTBSの報道は極めて無責任と言えます。

常軌を逸したNEWS23による美女応援団報道

1日のニュースを総括するTBSの夜の報道番組と言えば「NEWS23」ですが、この番組の美女応援団報道は、TBSニュースの上を行くプロパガンダのプロパガンダでした。TBSニュースをベースに更なる映像を加えて徹底的に美女応援団を報道しました。その一部映像を参照しながら、時系列に沿って報道内容を検証します。

[参照映像 2018年02月06日]
NEWS23は、平壌を出発する芸術団を報じる北朝鮮国営放送が制作したプロパガンダ映像をじっくりと流しました。そこには、芸術団を見送る金与正の姿がありました。まさに金正恩の描いたプロパガンダのプロローグをわざわざ日本国民に向けて放送したと言えます。

[参照映像 2018年02月07日]
NEWS23は「北朝鮮応援団。彼女らの動向は熱い注目を浴び、大会後の南北関係にも影響を与えそうだ」と主語のない構文で高らかに宣言しました。実際に彼女らの動向に熱く注目を浴びせたのはマスメディア以外の何物でもなく「大会後の南北関係に影響を与えそうだ」というのもマスメディアの勝手な推測以外の何物でもありませんが、一部の視聴者はこれをまともに受け取り、北朝鮮応援団が熱い注目を受ける影響力の高い集団であると認識することになります。

[参照映像 2018年02月08日]
NEWS23は日本ではほとんど誰も知らなかった北朝鮮芸術団という存在を広く広報しました。しかも何の意味もない美女応援団の着衣について詳細にチェックして報道しています。「彼女ら(美女応援団)の微笑み外交がいよいよ始まりました」という心躍るようなナレーションには閉口するより他ありません。金正恩の子供騙しのような目くらましにまんまと乗ってしまう日本のマスメディアは世界でも異質な存在ですが、その後、日韓マスメディアの異様な報道体制にインスパイアされた一部国際メディアが次第に美女応援団に着目していくことになります。

[参照映像 2018年02月09日]
着衣の変化を詳細に報じるなど、美女応援団をまるでセレブリティのように捉え、ストーカーのようにパパラッチするNEWS23の報道は異様であり、まったく報道価値のない質問を彼女達に投げかけては、その質問に戸惑う彼女らの映像をひたすら長時間放映しました。圧巻だったのはNEWS23による五輪開会式の報道の主役は、紛れもなく北朝鮮美女応援団であったことです。世界的イヴェントの報道をプロパガンダ集団を中心に報じるスタンスは異常としか思えません。

[参照映像 2018年02月12日(1)]
NEWS23は「日本選手の活躍についてはこの後またすぐお伝えしますが、一方の北朝鮮の応援団、一糸乱れぬパフォーマンスに関心が集まっています」と宣言し、メダルを獲得した日本選手よりも北朝鮮美女応援団の報道を優先しました。このことは、日本選手の活躍よりも北朝鮮美女応援団の方がニュース価値が高いと判断したことによるものと言えます。もっと具体的に言えば、昼食をとろうとレストランにやってきた美女応援団に「食事はおいしいですか」という質問を投げかける報道の方が、小平選手の銀メダル&高木選手の銅メダルの報道よりも重要と考えているということです(笑)。

[参照映像 2018年02月12日(2)]
NEWS23は美男子仮面を使った北朝鮮美女応援団の応援に深く着目し、これが金日成の顔をモチーフにしたものであるか否かについて話題にしました。その後も金与正や北朝鮮芸術団のプロパガンダをたっぷりと伝え、微笑み外交の宣伝に余念がありませんでした。「日本選手の活躍についてはすぐお伝えします」と言いながら、10分過ぎても日本選手メダル獲得の話題に移ることはありませんでした。核兵器開発を続ける恐怖の人権蹂躙国のプロパガンダを何よりも優先して報道することも、【報道の自由 freedom of the press】であることに間違いありませんが、【自由 freedom】の本質を完全に見誤っていることも間違いありません。NEWS23は抑圧からの【自由 freedom】である【消去的自由 negative liberty】を行使して【自由 freedom】を自律する【積極的自由 Positive liberty】を放棄したと言えます。

[参照映像 2018年02月13日]
NEWS23はついには五輪報道そっちのけで休日を楽しむ北朝鮮美女応援団を報道し始めました。このような報道価値の全くない情報を優先するのが、TBSテレビのジャーナリズムと言えます。おそらく、「人間の表情を細かく観察すれば内心を知ることができる」という似非ジャーナリズムにありがちな幻想をこのような無意味な取材をするエクスキューズにしているものと考えられますが、そのような取材をしても結局何も得られないことはこの報道から明らかです。

[参照映像 2018年02月14日]
NEWS23が報道したのは、日本vs朝鮮半島合同チームのアイスホッケーのゲームではなく、合同チームを応援する北朝鮮美女応援団のパフォーマンスであったといえます。その意味では、スマイル・ジャパンはたまたま合同チームの一対戦相手であったに過ぎません。

NEWS23による金正恩のプロパガンダをプロパガンダした報道は、おバカ報道の歴史に残ることでしょう。自らが美女応援団をストーカーのように報じておいて、「彼女らの動向は熱い注目を浴び、大会後の南北関係にも影響を与えそうだ」と報じる自作自演の心理操作は、視聴者を完璧に小バカにしたものです。

エピローグ

平昌五輪は歴史に残る政治利用の五輪となったといえます。これは、現在でもスポーツを国威発揚の道具としている韓国が、同様にスポーツを国威発揚の道具としている北朝鮮と必然的にコラボした結果と言えるかと思います。そして、この五輪の政治利用を大きく推進させたのが、北朝鮮のプロパガンダを北朝鮮に代わって大きくプロパガンダした日韓のマスメディアです。日韓のマスメディア異様な報道に刺激されたのか、時が経つにつれて一部国際メディアも金正恩のプロパガンダに乗るような報道が一部に見られました。FOX Newsがこのようなメディアの風潮を痛烈に批判しています[記事]。とりわけ日本のマスメディアによる微笑み外交の報道をリードしたのはTBSであり、そのMVPはNEWS23と言えるかと思います。

今回のような核兵器開発を続ける恐怖の人権蹂躙国のプロパガンダに直面した時、日本のマスメディアができることは【報道しない自由】の行使であったと言えます。加戸守行元愛媛県知事の国会証言を黙殺したように、マスメディアが一切報道しなければ、公然の事実も一定期間隠すことができることはマスメディアが証明した通りです(笑)。しかしながら、日本のマスメディアは【報道しない自由】をけっして行使せずに、結果として北朝鮮のプロパガンダを高らかにプロパガンダするという結果になりました。

このような北朝鮮が一方的に利する報道の目的が、(1)視聴率目的なのか、(2)政治目的なのか、それとも(3)単なるおバカなのか、私にはよくわかりません。なんとなくわかるのは、晩餐会で子供じみた行動をとったアメリカが、北朝鮮に本気で怒っているということです。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2018年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。