中国の春節は静かになったというけれど…

中国の春節休暇が終わった。みんなが年々、春節が静かになっていくというけれど、同僚の先生から送られてきた写真は圧巻だった。彼の名は凌学敏(リン・シュエミン)。ミャンマーで育ち、台湾に移住し、日本で写真を学んだ。国際コンテストの受賞経験もある逸材だ。夫人が地元・汕頭の女性であることもあって、現地の風俗、習慣に詳しく、長年にわたって伝統文化を撮り続けている。

私も彼のおかげで、外からはうかがえない地元の表情に触れることができる。農村の宴席に呼ばれ、ブランデーをさんざん振る舞われたあげく、意識を失った武勇伝まである。

彼が、地元の春節を伝える写真を送ってくれた。驚く発見がいくつかあった。

中国ではすっかり廃れていると思っていた春節7日目の「七草がゆ」が、汕頭地区には残っていた。以前、授業で日本の七草がゆについて紹介した際も、学生たちはみな初耳だと言っていた。


中国式は、特定の七草ではなく、市場にある野菜をまとめて集めてくるという。十数種類になることもある。南方では春を迎えて野菜が多く出回る。その旬を楽しむのだ。健康もさることながら、みんなで食べれば気分もよくなる。そしてみんなにとって万事がうまくいきますように、との願いが込められる。家族で食を共にすることの尊さをみなが味わう。苦難をともに乗り越え、喜びを分かち合う。その味覚には数多くの記憶が刻まれるに違いない。

もう一つが、春節7日目から8日目にかけ、汕頭金平区の月浦社区で行われる「賀丁頭」だ。大学のすぐそばでこんな伝統儀式が行われているとは夢にも思わなかった。24歳男子の成長を祝う一種の通過儀礼で、大きなブタを祖先に捧げ、みなで分かち合う。明代から伝わる伝統だという。中国の成人は18歳だが、いよいよ一家の主となる男子を祝うのが「賀丁頭」なのだろう。男子が家督を継ぐ伝統が色濃く残っている。



大きなブタをさばき、耳にはイヤリングで装飾をし、口にはみかんを入れる。かつては24歳を迎える男子が自分で育てたブタを使っていたが、今はみな仕事で忙しいので、専門の養豚業者が用意する。祖先への報告が終わると、ブタを神輿にして、親族友人らが町中を駆け回る。




汕頭に隣接する掲陽市の塩城区磐東街道陽美村では春節5日目、かがり火を手に練り歩く「火把祭」が行われる。300年の歴史があり、2009年には国の無形文化財に登録されている。火に神意をみる文化である。



ここでも男子が神輿を担いで練り歩く儀式がある。潮汕地区の深い信仰を感じさせる。




日本に感謝しているという友人から届いた、素晴らしい春節のメッセージをありがたく思う。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。