ドイツ政界の行方は今週末には明らかになる予定だ。野党第1党社会民主党(SPD)がメルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と大連立を発足させるか否かを問う党員投票の結果が出るからだ。
それに先立ち、CDUは26日、第30回党大会をベルリンで開催し、SPDとの大連立交渉の合意内容を賛成多数で承認した。反対は27人に過ぎなかった。
しかし、メルケル首相にとっても、ここまで到達するのにはかなり苦戦を強いられた。CDU内で不満や批判の声があがったからだ。例えば、新政権の主要ポストをSPDにことごとく譲ったことにCDUから強い反発が出てきた。財務相と外相の主要ポストを社民党に譲り、内務省をCSUに与えたことに対し、CDU内保守派勢力からメルケル退陣を求める声すら聞かれた。
以下、メルケル首相がCDU党大会前に実施した党内人事を紹介する。そこには12年間、政権を主導してきたメルケル首相の鍛えられた党操縦術が垣間見えるのだ。
先ず、CDU内の反メルケル派の若手筆頭、イェンス・シュパ―ン議員(37)を保健相に抜擢した。政権内に批判者を引き入れることで、その口を塞ぐやり方だ。政敵やライバルを外に放置せず、政権内で一定のポストを提供して飼いならす伝統的なやり方だ。
第2、財務相ポストをSPDに提供したことへの対応。ヴォルフガング・ショイ前財務相(現連邦議会議長)はドイツ経済の発展の演出者と受け取られてきた。メルケル首相は連立交渉でその財務省をSPDに与えたのだ。それに対し、メルケル首相には、「SPDに財政を担当させ、国家財政を運営することが如何に難行かを学ばせ、バラマキ財政などの政策を制止するという狙いがあるはずだ」と受け取られている。
第3に、メルケル首相の後継者問題だ。SPDではシュルツ党首が辞任し、新党首に連邦議会(下院) 党会派代表のアンドレア・ナーレス議員が選出された。CSUではゼーホーファー党首が州首相ポストをライバルのマルクス・ゼ―ダー氏に譲った。CDUだけがこれまで党首人事がなかった。
メルケル首相はここでも抜群の対応を示した。サールランド州のアンネグレート・クランプ=カレンバウアー首相(55)を党事務局長に抜擢した。州首相を党事務局長に抜擢するというのは通常の人事ではない。党員の中にも驚きの声が聞かれたのは当然だ。メルケル首相はこの人事を通じ、党内でくすぶり続けてきた後継者問題を鎮静化できると計算したはずだ。
ちなみに、ポスト・メルケルではこれまでウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相(59)の名が筆頭に挙げられてきたが、そのリストにクランプ・カレンバウアー新事務局長が加わったわけだ。後継者レースには上記の2人のほか、今回保健相に選出されたシュパ―ン議員、そしてラインラント・プファルツ州のCDUトップ、ユリア・クレックナー氏(45)の4人の名前が挙がっている。
最後に、内相ポストをバイエルン州のCSUに譲ったことに、CDU内は批判が強い。カール・エルンスト・トーマス・デメジエール内相(64)はメルケル首相の最側近であり、これまで連邦首相府長官、国防相を担当し、内相を務めてきたベテラン政治家だ。そのトーマス・デメジエール内相を辞任させ、ゼーホーファーCSU党首に譲ったのだ。その主要理由は難民政策への対応があったはずだ。
ドイツ南部バイエル州には2015年、多くの難民が殺到した。同州ではメルメル首相の難民ウエルカム政策に対する批判の声が高まった。ゼーホーファー党首は難民受け入れ最上限設定をメルケル首相に強く要求してきた経緯がある。CSUに内相ポストを与えることで、難民政策の対応が一層スムーズにいくだろう。
メルケル首相は第4次政権発足を控え、自身の党内基盤を整備した。さすがだ。その党操縦術は他の指導者にも参考になるはずだ(SPD党員投票で大連立反対が決定した場合、メルケル首相は新たな対応に乗り出さざるを得なくなる)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。