【映画評】シェイプ・オブ・ウォーター

渡 まち子

(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

1962年、ソビエトとの冷戦時代のアメリカ。清掃員として政府の極秘研究所で働く口の不自由なイライザは、密かに運び込まれた不思議な生き物の姿を見て心を奪われる。孤独なイライザは、周囲の目を盗んで、アマゾンで神のように崇められていたという“彼”に会いに行き、手話や音楽、ダンスなどで彼とコミュニケーションをとる。やがて二人の心は通いあうが、威圧的な軍人ストリックランドは彼を虐待し実験の犠牲にしようとしていた。それを知ったイライザは、同僚のゼルダや隣人の画家ジャイルズらを巻き込み、彼を研究所から救出しようと試みる…。

不思議な生き物と孤独な女性との種族を超えたラブロマンス「シェイプ・オブ・ウォーター」。童話の人魚姫から、「シザー・ハンズ」「美女と野獣」に至るまで、私たちは種を超えたラブストーリーに常に魅了されてきた。本作もまたしかり。しかもこの作品はファンタジーや恋愛劇といったジャンルにはとうてい収まらない広がりと深みがある。「大アマゾンの半魚人」にオマージュを捧げたモンスター映画、冷戦下の政治サスペンス、さらにはマイノリティ讃歌のドラマなど、多面性を備え、時にミュージカルやバイオレンス、ユーモアをも織り込みながら、最終的には愛の寓話へと昇華していく。異形のものへの愛は「パンズ・ラビリンス」の頃と変わらない。本作はまさしくデロ・トロ映画というジャンルなのだ。

(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

クリーチャーは言うまでもなく、口がきけないイライザ、黒人の同僚ゼルダ、同性愛者のジャイルズなど、登場人物のほとんどは社会からはみだしたアウトサイダーばかり。彼らが緻密かつ大胆な作戦で“正義”を行う後半は一級のサスペンスで、愛の逃避行の行く先は、予想をはるかに超えた幻想譚だった。せりふがない難役を熱演するサリー・ホーキンスと、残忍な軍人の狂気を体現したマイケル・シャノンの名演は見るものの心をつかんで離さないだろう。ロマンチックな音楽や、水をイメージした流麗な映像も秀逸で心に残る。種や美醜を超えて響いてくる妖艶なラブ・ファンタジーは、アメリカが最も不安におびえていた冷戦時代が背景なのに、驚くほど現代社会を射抜いている。天才ギレルモ・デル・トロの特別な芸術作品だ。
【95点】
(原題「THE SHAPE OF WATER」)
(アメリカ/ギレルモ・デル・トロ監督/サリー・ホーキンス、オクタヴィア・スペンサー、リチャード・ジェンキンス、他)
(ファンタジー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。