佐川元長官も”ムラ社会の論理”から逃れられなかった⁉︎

衆議院インターネット中継より:編集部

近畿財務局による国有地払い下げ問題で、佐川国税庁長官が辞任した。

この報を見て、「この人はどうして国税庁長官に就任したんだろう?」「就任を拒否できなかったのだろうか?」と思った人も少なくないと思う。

払い下げ問題で「巨額の税金を無駄遣いしたのではないか?」と騒がれていた最中に、国税庁長官に就任すれば「無駄遣いをした当人に、国民から血税を徴収する資格はない」と攻撃されることは十分予期できたはずだ。

一部週刊誌にはプライベートなことまで書かれ、当人だけでなく家族もさぞや肩身の狭い思いをしたと思われる。60歳という年齢からすると、大蔵省時代の同期の中にはすでに手堅い所に天下り、高給を得て悠々自適の生活をしている人も多数いるはずだ。

「せっかくのご意向ですが、私には不適格であり職務を全うする自信がありません」という一言がどうして言えなかったのか?

あくまで私の推測だが、佐川氏も組織特有の“ムラ社会の論理”にどっぷり浸かってしまい、その論理に逆らうことができなかったのではなかろうか?

大企業や官庁には、強力な内部規範が存在する。

「少々法律違反をしてでも会社を守ることが大事」「生活よりも仕事が大事」「組織全体よりセクショナリズムが優先」…等々、外の世界とは全く異なる規範に従うことが求められる。

この規範が”ムラ社会の論理”だ。

官舎や社宅に住むと、妻子までが夫の組織内のポジションを意識せざるを得なくなるという話を聞いたこともある。家族ぐるみで、”ムラ社会の論理”に呑み込まれてしまっているようだ。

大昔の話だが、トヨタ自動車の若手社員が日産のスカイラインを買って独身寮の駐車場に停めていたら、上司や周囲から「他社の車を買うとは何事か!」と散々叱られたそうだ。

「自社の車を買って自社に利益をもたらすのが当然」という風土も、言ってみれば”ムラ社会の論理”だ。
ちなみに、当の若手社員は「ライバル社の車を研究するために買ったのです」と言い訳をして、かえって評価が上がったそうだが。

「出世のポストを与えられたら無条件で受ける」という組織規範が、大蔵省・財務省にはあったのかもしれない。名だたる大企業にも、同じように「出世ポストは無条件で受ける」という規範が存在しているはずだ。

組織内にドップリはまってしまうと、「断る」という選択肢は生理的に受け付けないのかもしれない。
“ムラ社会の論理”が心身に染み込んでしまうと、抜けるまで相当の年月がかかってしまう。中には、“ムラ社会の論理”にがんじがらめになってしまい、自らの命を断ってしまう人もいる。

私自身、せいぜい6年程度のサラリーマン生活だったが、“ムラ社会の論理”の呪縛が消えて、「役員だろうが人事部長だろうが、ただのオッサンに過ぎない」と思えるようになるまでしばらくかかった。

転職が増え、有能な女性が増え、職場内に多様性が出てきた昨今は、“ムラ社会の論理”が弱まっていると期待している。
とはいえ、常に高所から全体を見渡す視野を失わないよう、日頃から留意しておくに越したことはない。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。