1945年、樺太で暮らす江蓮てつは、日ソ不可侵条約を破棄したソ連の侵攻にさらされ、2人の息子と一緒に命からがら北海道の網走まで逃げ延びる。凍てつく寒さ、飢え、極貧の中を「もう一度家族4人そろって桜を見よう」との夫の言葉だけを頼りに、必死で生き延びた。1971年、アメリカで事業に成功した次男の修二郎は、日本に帰国し、北海道へと帰ってくる。年老いた母てつを一人にしてはおけないと、一緒に暮らし始めるが、母子は思いあうがゆえにすれ違い、てつは一人網走に戻ろうとする。記憶が混濁し認知症を発症した母に寄り添おうと決意した修二郎は、二人で北海道各地を巡り、共に過ごした記憶を拾い集めていく…。
北海道を舞台に、戦中から戦後の激動の時代を生き抜いた親子の姿を描くヒューマン・ドラマ「北の桜守」。日本を代表する大女優・吉永小百合が主演を務め、「北の零年」「北のカナリアたち」に次ぐ北海道の大地を舞台にした“北の三部作”の集大成だ。今回は「おくりびと」の滝田洋二郎が監督を務め、戦中に北海道で起こった悲劇的な歴史も織り込みながら、親子の絆を描いている。
激動の時代を死にもの狂いで生きた母子の物語の中で、戦争の圧倒的な暴力性を表すのに、劇中劇として演劇という手法をとっているのが画期的だ。引き揚げ時の混乱、集団自決事件など、史実に基づくそれらの出来事が、独特の語り口で挿入される。この象徴的な演劇スタイルに違和感を感じる人も多いだろう。意外なことに、吉永小百合は舞台経験がなく、これが“初の舞台経験”だそうだ。正直、30代を演じるにはさすがの美人女優も無理があるのだが、映画出演120本を迎える大女優の尽きないチャレンジ精神に、尊敬の念を覚える。ひとつ残念なのは、タイトルにある桜守(地域に根ざし、1年を通じて桜の樹木の保護育成に携わる人のこと)の仕事について、深く描かれなかったこと。桜はあくまで幸福のイメージというのなら、別のタイトルでも良かったのでは。いずれにしても吉永小百合ありきの感動作に仕上がっている。
【60点】
(原題「北の桜守」)
(日本/滝田洋二郎監督/吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、他)
(親子愛度:★★★★★)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。