つい先日、グアテマラのジミー・モラレス大統領が今年5月に米国に続いてイスラエルのエルサレムに大使館を移すことを発表した。
この発表に至るまでに以下のような背景と経緯があった。
トランプ大統領がエルサレムに米国大使館を移転させることを正式に発表したのは昨年12月7日の事であった。
一方、国連総会でそれに反対する決議が採択されたのが同月21日。イスラエルのネタニャフ首相は米国以外にエルサレムに大使館を移転される予定の国が数か国あると指摘した。
それから2日後の12月23日に、中米のグアテマラのジミー・モラレス大統領がトランプ大統領の意向に沿う形でエルサレムに大使館を移転すると発表したのであった。それは他の国に先駆けての決定で、華々しくそれをモラレス大統領は発表した。
その後、すぐにイスラエルのネタニャフ首相と電話会談を持ち、大使館をエルサレムに移転させることを口頭で伝えた。
折り返し、ネタニャフ首相はツイッターで「イスラエルの首都をエルサレムと認定し、わが国の首都に大使館を復帰させる決定に私の友であるグアテマラ大統領ジミー・モラレス氏に感謝する。貴方とグアテマラの国民がより良いクリスマスを過ごされることをエルサレムより望んでいます」というメッセージを送ったのであった。
同様に、在グアテマラ米国大使館からもジミー・モラレス大統領とグアテマラ政府に対しその決定を歓迎するという公式ツイートが発表された。
イスラエルそして米国からのこのような反応が貰えることをモラレス大統領は当初から計算済であった。彼は2015年に大統領になったが、それ以前はテレビ俳優であり作家でもあった。また映画の制作などにも手掛けた人物だ。主人公のような振舞いで注目を集める為の演出をするのは得意であった。
では何故それをする必要があったのか。それは、トランプ大統領が一時的に合法移民を認める制度TPS(一時保護資格)を打ち切ることを内心決めていたからであった。
TPS は1990年にブッシュJR大統領によって創設された移民受け入れ制度で、地震、洪水、ハリケーン、内戦、その他災害の被害を受けた発展途上国を対象に10か国、当時44万人が米国で一時的に合法移民として受け入れられるとした制度であった。
オバマ大統領政権時までこの制度について問題にされることはなかった。ところが、トランプ大統領になってから移民に対しては厳しい姿勢で臨むようになっていた。
TPSの場合、その対象となるのは中米とカリブ海諸国で、ニカラグアとハイチに対しては既にこの制度は打ち切られていた。これによって、2500人のニカラグアの移民と5万人のハイチからの移民がそれぞれTPSの対象から外されて、2019年7月までに米国から出国せねばならなくなっていた。その後、この制度廃止の対象にされる国はエル・サルバドル、ホンジュラス、グアテマラとなっていたのである。
そして、1月9日にはエル・サルバドルがその打ち切りの対象国となったのである。同国の米国在住の移民は凡そ20万人と推定されている。米国政府は彼らに対し、2019年9月までに出国するか、または合法的に在住許可を取得するか二者択一の選択を要求するとした。
エル・サルバドルの場合、米国に在住する移民から母国エル・サルバドルに稼いだお金を家族支援のために送金する額は同国GDPの17%を形成しているというのである
その次に対象にされるのは5万7000人が米国に移住しているホンジュラスだとされている。
そんな中で、グアテマラはエル・サルバドルそしてホンジュラスと一緒に米国への不法移民の多い国3か国とされている。
そこで、モラレス大統領は先手を打って、エルサレムへの大使館の移転をどの国よりも先に決めて、その恩を米国に売るという居に出たのであった。そうすれば、トランプ大統領はTPS打ち切りの対象からグアテマラを外してくれるはずだとモラレス大統領は読んだようである。
何しろ、米国にはグアテマラからの不法移民は100万人いると推定されており、既に4万人がこれまで本国に強制送還されている。グアテマラにとって、米国で不法移民への取り締まりを厳しくすると、グアテマラで彼らを受け入れる体制は出来ていない。モラレス大統領はエルサレムへの同国大使館の移転の決定は、グアテマラからの不法移民への取り締まりの緩和も同時に求めた決定なのであった。
そして、2月8日にホワイトハウスでモラレス大統領はトランプ大統領から大使館移転の件で直接感謝された。それは米国におけるグアテマラ移民に対しては米国政府は規制を緩和するということを期待できる感謝と受けとめたのであった。
そして、つい最近トランプ大統領が今年5月にエルサレムに米国大使館を移転させることを発表したのを受けて、グアテマラも同様の決定を下したという訳である。
これでグアテマラはTPS打ち切りの対象国からトランプ大統領は外してくれるとモラレス大統領は判断しているのである。