2017年6月9日、東京都が設立し管轄する独立行政法人の病院で、1年近くの間に、人工心臓をつける手術を受けた患者5人のうち3人が亡くなり、都が立ち入り検査を行っていたことが明らかになりました。上田が、都福祉保健局に確認したところ、都が設立した独立行政法人の病院で東京・板橋区にある「東京都健康長寿医療センター」で、一昨年の7月からの1年近くの間に、重い心臓病のために人工心臓をつける手術を受けた患者5人のうち20代の患者を含む3人がその後、死亡したとのことでした。
高齢者向病院で、なぜ若年患者が心臓手術で死亡?
昨年5月に外部から連絡があり、都が立ち入り検査を行って手術の実施状況や管理体制などを調べたところ「問題は見つからなかった」とし、小池知事は、同日の記者会見で「管理体制に問題ないことを確認している。実施している心臓手術については定期的に外部からの評価を受けてる。立ち入り検査の中で、今後も評価を受けるよう伝えた」と述べていました。一見ごもっともで非の打ちどころのないコメントで、記者団達も追っての質問を進めませんでした。
その様子を見ていて…
私はその後、おや?と思ったのです。
なぜなら昨年第三回定例会にて、業務実績報告書が公表され同センターについて地方独立行政法人法第25条の規定に基づき、都の地方独立行政法人の中期目標(平成30~35年)が定められたところで、その根幹をなす、そもそもの同センターの基本理念は
「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターは、高齢者の心身の特性に応じた適切な医療の提供、臨床と研究の連携、高齢者のQOLを維持・向上させるための研究を通じて、高齢者の健康増進、健康長寿の実現を目指し、大都市東京における超高齢社会の都市モデルの創造の一翼を担います。」
と明確に規定されており、定款にも同様のことが規定されているからであります。実際に同センタ―HPトップページにも堂々と高齢者医療と研究を目的にすると高らかに掲げています。
つまり、健康長寿医療センタ―の医療の対象は基本的に高齢者。であるにも関わらず、高齢者向けの地域医療を提供する同センターにおいて、心臓移植待機患者を対象とする難易度の高い植込型補助人工心臓手術が、しかも…なぜ?!若年患者に行われ死亡してしまったのか、大いなる疑問を感じたのです。
2016年に突然始まった植込型補助人工心臓手術
植込型補助人工心臓手術とは、遠心型のポンプを体内に植込み、動力源を体外につなぐ方法でありまして、高度な技術やオペの環境が必要とされます。
同センター設立当初は行っていないオペであったのに、どうしたことか?非常に不自然に感じたので、同センターがいつ、どの医師によって植込型補助人工心臓手術を開始したのか、その医師らはいつ同センターに着任したのか。その医師らが着任前に同オペは実施していたのか。開始以降今日までの手術件数と死亡件数、死亡した方の場合は術後どのくらいの期間で死亡したのか、生存者の生存期間について福祉保健局へ確認したところ以下の実態がわかりました。
・センターは、28年1月に植込型補助人工心臓実施施設として認定を受け、同年7月に1例目の手術を実施。執刀医である心臓外科部長は2012年4月に着任。手術は実施施設としての認定を受けなければ実施できない。
・2017年12月までの当該手術の実施件数は7例、うち死亡事例3例の植込型補助人工心臓の装着期間は約4か月から約7か月の間
・また、他の4例の装着期間は、2017年12月1日現在、約2か月から約1年1か月の間
つまり、2016年1月から突如として認定を受けてオペが開始され、7例のうち3例死亡したということです。同オペの全国平均の360日後の生存率は、J-MACS(日本における補助人工心臓に関連した市販後のデータ収集)によると、92%となっていることから、統計の考え方の違いはあるにせよ、同センターの死亡事例3例がいずれも術後360日に満たずに亡くなっていることについて確認したところ
・植込型補助人工心臓手術は、2年以上の生命予後が期待できない心臓移植待機患者に実施。
・実施施設の更新基準は、装着例の3か月生存率が50%以上とされている。死亡した3名は術後3か月の段階では全員が生存
・事例検討会では、死亡した3例はリスクの高い症例であったことや、手術の実施体制、患者管理は適切であったことが確認されている。
とのことで要は「問題がない」とのことです。
白い巨塔体質が残ってないか確認
心臓外科手術は、医師はもちろん、専門技術・経験を有する医療スタッフが不可欠。症例数が多ければ多いほど、医療技術も習熟するものと考えたことから、同センターで突如として開始された植込型補助人工心臓手術を支えるスタッフ体制が気になりました。念のため都が関わっている地方独立行政法人(独法)の病院において、ことに「白い巨塔」と言われる医療現場のハイエラルキーが指摘されて久しい中、立場上異議を唱えることのできない職員の声をどう受け止めているか、受け止められているか懸念をし、同センターにおける公益通報のできる組織風土、パワーハラスメント等あらゆるハラスメント撲滅対策と現状の課題についても、確認しましたが、独法であることから、都は個別のハラスメント事案について把握・調査を行っていないが、制度は整っているということでした。
つまり「問題がない」とのことです。
自主回収が出ていた植込型補助人工システム
さらに、当該オペで使用していたJarvik2000植込型補助人工心臓システムにつきセンチュリーメディカル株式会社より大規模な製品自主回収の報告が2017年11月16日(詳細こちら)にあった情報を上田が独自入手しました。そこで、同センターにおいての同オペ全ての事例に関して確認をしているか、カンファレンスにおいて不具合を指摘した医師はいなかったのか、いたとしたら報告はどうなっていたのか、当然のことながら該当する患者に情報提供と説明をしたのか、代替対応策と他のシステム導入についてはどうするのか確認。
・センターで植込型補助人工心臓手術を行った7例のうち、4例で回収対象となる機器を使用。
・製造販売業者による自主回収時点で、既に2名が亡くなっていたが、装着中の2名に対しては、速やかに説明を行った上で、製造販売業者とともに当該機器に不具合がなく、今後の使用に支障がないことを確認
・回収対象となった医療機器の不具合は、「ポンプに直結した体内ケーブルの体外にあるコネクター内部のワイヤーに接続不良を起こしかねない」というものだが、心臓外科のほか、リハビリテーション科、薬剤科、臨床工学科等のスタッフが参加するカンファレンスにおいて、当該不具合の内容が指摘された記録はない。
とのことでこちらも「問題ない」ということです。ここから先は医療現場の判断となりますことから、私は、この点の是非については毛頭論じるつもりはございません。
都は地域医療構想のもと自治体医療に専念を
ただ、東京都議会議員として言わなければならないのは、東京大学医学部附属病院等のように専門性も高く、長い経験値のもと症例も多く、スタッフ機器と技術のハードもソフトも整った都内首都圏に複数存在する医療機関へ患者を紹介すればいいだけの話なのに、なぜ同センターにおいて、高齢者ではない若年死亡者を出してまで、難易度の高い患者に対し同オペをしなければならないのか、どうしても疑問が残るということです。
仮に急患で来て「応召義務」があったとしても、それこそ都が掲げる地域医療構想のもと、医療機関の専門性に応じて、役割分担をすべく、紹介状を書いて専門病院へ繋げればいいのです。
都は、私の疑義に対し「公的医療機関として、その有する医療機能を生かし、救急医療をはじめ、高齢者に限らず広く都民に対し医療を提供」(お姐超訳=問題ないので、このまま続けます)という本末転倒な見解を持っております。私の自治体医療に関しての見解は過去blog「自治体病院の存在意義とは~「住民医療」への原点回帰~」をご一読ください。
お姐総括
餅は餅屋!
得意分野を有する機関と役割分担をすることでコストとリスクを軽減すべき!
医師に属している医療技術を提供することが自治体病院の役割ではないはずです。ことに高齢者に特化して評価の高い、同センターは、定款や中期計画に掲げる本来病院が提供すべき医療に専念すべきではないか…そのような観点から、亡くなられた患者様のご冥福をお祈りする気持ちを胸に、引き続き「植込型補助人工心臓手術」及びセンター事業をはじめ都の医療政策全般を都民のものとすべくチェックしてまいります。
追伸:本blogは、情報公開請求不要の議事録に残る文書質問(平成29年第四回定例会上田令子文書質問趣意書)を元に作成されております。
☆お姐、いつの世も医は仁術!それを支える行政と政治を!☆
上田令子 プロフィール
東京都議会議員(江戸川区選出)、都議会会派「かがやけTokyo」政調会長、地域政党「自由を守る会」代表
白百合女子大学を卒業後、ナショナルライフ保険(現ING生命)入社後、以降数社を経て、起業も。2007年統一地方選挙にて江戸川区議会議員初当選。2期目江戸川区議会史上最高記録、2011年統一地方選挙東京都の候補全員の中で最多得票の1万2千票のトップ当選。2013年東京都議会議員選挙初当選。2014年11月地域政党「自由を守る会」を設立し、代表に就任。2015年3月地域政党サミット(全国地域政党連絡協議会)を設立し、副代表に就任。
上田令子の世直しプロジェクト
地域政党「自由を守る会」
地域政党サミット(全国地域政党連絡協議会)
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