森友文書の改竄をスクープした朝日新聞の情報源は、大阪地検特捜部の検事だと思われるが、わからないのは検察がなぜこんな政権をゆるがす情報をリークという変則的な形で出したのかである。その答は、文書の改竄や事後処理にどこまで首相官邸の関与があったと考えるかで違う。
役所の常識では、まったく官邸の関与がなかったとは考えにくい。財務省は昭恵さんの名前の入っている文書については、官邸に相談するだろう。遅くとも検察が入って国交省や会計検査院に原本があることが判明した昨年4月以降は財務省だけで隠蔽できないので、官邸と協議したと思われる。
検察も普通は朝日に情報を出す前に、官邸に情報を上げるだろう。もちろん公式の報告ではなく、杉田官房副長官に「かぎつけられたので隠せない」と電話する程度だ。この場合は「今月5日に国交省の報告で初めて知った」という杉田副長官は(場合によっては菅官房長官も)嘘をついていることになるが、文書の証拠は残らない。
その逆に、官邸の知らないうちに検察が朝日に情報を出すことはありうるだろうか。これは組織としては考えられないが、大阪地検の検事に安倍政権に不満をもつ「青年将校」がいるとすれば、特捜部が不起訴の方針を決めたことに不満をもち、朝日にリークしたとも考えられる。あるいは財務省が検察と手打ちした事件を、現場の検事が朝日に持ち込んだのかもしれない。
こういう見方は少数派だが、安積明子氏が「永田町関係者」の見方として書いている。1月の人事で法務省の事務次官に昇格するはずだった林刑事局長が名古屋高検検事長に転出し、安倍首相に近いといわれる黒川事務次官が異例の長期にわたって留任したことに不満をもつ検事が、安倍政権の人事介入に報復したのだという。
ここまでくると、よほど霞ヶ関の人事にくわしい人でないと真偽は判断できない。佐川元理財局長は国会に証人喚問されたら、「理財局の中だけの話だ」と証言して泥をかぶるだろう。事前の指示は彼のレベルまでだったかもしれないが、問題は事後処理である。遅くとも検察が入ったあとは、杉田氏が財務省に「徹底調査して処分しろ」ぐらいは言ったのではないか。
他方、官邸の知らないところで検察から情報が出たとすれば、危機管理に深刻な欠陥があることになる。警察と人事を統括する杉田副長官(内閣人事局長)に情報が上がっていなかったとすると、黒川次官の責任が問われるのではないか。今回のリークが検察の「統帥権の独立」を求める青年将校のクーデタだとすれば、官邸主導の改革は大きく巻き戻される可能性がある。