EUの逆襲?デジタル企業への課税強化案を発表

フェイスブックがデータ会社ケンブリッジ・アナリティカに5,000万人の個人情報を漏洩させた問題は、時代に流れに乗り隆盛を極めたIT企業=デジタル企業(欧州委員会のプレスリリースに準じた表現)のターニング・ポイントとなりそうです。

欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会は21日、本社拠点ではなくビジネスを行う場所を軸に課税する方針を表明しました。税制方針の変更により、フェイスブックをはじめグーグル、アマゾンなど大手デジタル企業を中心に納税額が大幅に引き上げられる公算です。

欧州委員会によれば、デジタル企業の法人実効税率は欧州で平均9.5%に過ぎません。非デジタル企業の23.2%より、格段に低いんですね。

モスコビシ欧州委員(税制担当)は、記者会見で「デジタル・イノベーションは経済だけでなく、ビジネスが価値を創造する方法まで引っくり返してしまった」と発言。さらに今回の税制方針の変更に対し「今回のアイデアは、均等な扱いと一段と公正な税制を保証するものだ」と語り、時代遅れな税制に一石を投じるものと主張します。

世界の大手企業20社のうち、9社がデジタル企業。


(出所:EU

税制方針の変更対象は、1)EU内での年間売上が700万ユーロ、2)課税対象年度での利用者数が10万人以上、3)課税対象年度でのデジタル・サービス対象法人顧客が3,000件以上——のいずれかが該当する企業となります。

EU加盟国が抜け駆けしないよう、暫定措置も提案しました。この措置は、1)オンライン広告ビジネス、2)ネットを介した活動で別の利用者とコンタクトを取れるビジネス(SNSを想定)、3)利用者から取得したデータを売買するビジネス——が対象。企業規模は世界での年間売上が7.5億ユーロ、EUでの年間売上が5,000万ユーロで、中小企業は免除されます。税率は明示していませんが、3%の課税で年間50億ユーロの歳入が見込まれるそうです。

モスコビシ欧州委員は、CNBCで「米国企業を狙った措置ではない」と明言しました。トランプ大統領が決定を下した鉄鋼・アルミの輸入制限への報復措置ではない、と説明したわけです。

確かに、欧州企業に対し厳しい態度で臨んだのはトランプ大統領一人ではありません。オバマ前大統領の時代を中心に、米金融機関はもちろんドイツ銀行をはじめ多くの欧州系銀行が住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売問題で、巨額の罰金や和解金を支払ってきました。2007年にパリバ・ショックが発生してから、米当局は約1,500億ドルも徴収したといいます(金融危機下で問題の機関を買収した米銀の支払い額が突出するものの、買収による市場シェア拡大など恩恵もあった)。加えてロンドン銀行間取引金利(LIBOR)や外国為替相場の不正取引をめぐる罰金や和解金もあり、欧州債務危機も重なって欧州系銀行は資本不足を伴う急速な競争力低下に見舞われたものです。

AIやビッグデータなど新たな収益源に個人情報は不可欠であるなか、全世界でリードするのは米企業。欧州側が意趣返しを含め米国のデジタル企業に目をつけないはずはなく、欧州委員会はアップルやアマゾンなどに対し課税逃れに対応してきました。グーグルには、独占禁止法違反で制裁金を課したことも記憶に新しい。EUは米企業の独占状態阻止に向け、今度は税制でそのフォースを遺憾なく発揮しつつあります。

(カバー写真:EU Council Eurozone/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。