ロボット車の初の人身事故発生

長谷川 良

米アリゾナ州でのテンピ市で18日夜(現地時間)、1人の女性(49)が車道に飛び出したところ自動操縦車(ロボット車)に跳ねられ、運び込まれた病院で死去した。女性はこれまで明らかになったロボット車による最初の犠牲者と受け取られている。米紙ニューヨークタイムズらが大きく報じた。

▲オーストリアの大衆紙「エスターライヒ」21日付の国際面はロボット車の事故を大きく報道

▲オーストリアの大衆紙「エスターライヒ」21日付の国際面はロボット車の事故を大きく報道

現地の警察当局の発表によると、事故を起こした時、時速約60キロで走行中の自動車には1人が座っていたが、自動操縦で走行中だった。事故を起こした車種はボルボXC90。ロボット車はボルボ社が製造したのではなく、米配車サービス大手ウーバーテクノロジーズの車両だった。ダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)はツイッターで「信じられない悲しいニュースだ」と述べている。ウーバーテクノロジーズ社は無人自動車の固有システムを開発している。

米道路交通安全局(NHTSA)と国家運輸安全委員会 (NTSB) は事故を調査するために独自チームを編成して事故発生地テンピ市に派遣すると発表した。ウーバーテクノロジーズ社は「事故の全容解明のために当局と連携する」と発表する一方、テンピ、ピッツバーグ、サンフランシスコ、トロントでのロボット車の全テストを暫く停止するという。

現地からの情報によると、女性が自転車を引きずりながら車道に入る寸前、木立の影となったために、ロボット車のセンサーは女性をキャッチできなかった。そのため「人間が運転していても事故は防げられなかった」と受け取られているという。

今回のロボット車の事故は米国内でその安全性について議論を呼んでいる。一番多く聞かれるのは「無人自動車の安全性」への危惧を表明する声だ。一方、「世界で毎年、100万人以上が交通事故で亡くなっている。そして事故の90%は運転する人間の過失によって発生している」という理由から、ロボット車の登場で交通事故を減少できるという意見もある。ロボット車の技術的問題だけではない。無人自動車による事故が起きた場合の法的、倫理的な問題についても議論が分かれている。

ちなみに、2015年、無人操縦の自動車で1人が死去した。バッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品、ソーラーパネル等を開発・製造・販売している自動車会社「テスラ」社の自動操縦車が技術的な欠陥で事故を起こしたケースだ。

カリフォルニア州では4月から自動操縦車の運転を基本的に認めている。同州では世界から50社が無人自動車の試運転の認可を得ているという。ただし、メルセデス・ベンツ、BMW、フォード、日産、ボルボなど大手自動車メーカーは2020年前までは自動操縦車を市場に出す計画はないという。

ところで、ロボット車は、①サイバー攻撃に対する防止対策など安全基準を満たさなければならない、②無人自動車の運転状況を信号で監視、③飛行中のデータを記録する飛行機と同じく、走行中の全データを記録しなければならない。④警察官が無人自動車を停止できるように警察側との通信体制の確立、といった技術的課題をクリアしなければならない。

近い将来、自動操縦車の技術的向上で技術的なハードルは克服できるかもしれないが、ロボット車のプログラム作成段階でさまざまな法的、倫理的な問題も出てくる。

2つの例を挙げる。

①路上に突然、3人の子供が飛び出した。ロボットカーは車に設置されたセンサーで即座に子供の動きを計算して事故を回避する処置を取る。ハンドルを右側に切って眼前の樹木に車を衝突させれば子供をひかずに済む。ロボットカーは「事故の損傷を最小限に抑える」ようにプログラミングされているから、「3人の子供の命を守る」という選択を取る。事故に関わった人間の数は3(子供)対1(車内の人間)だ。「事故の際、犠牲を最小限に抑える」とプログラミングされているロボットカーには他の選択肢はない。

②前方に子供が歩道から飛び出した。歩道には老婦人が歩いている。子供を守るためには歩道に車を乗りあげる以外に他の選択がない。ロボットカーは躊躇することなくハンドルを歩道側に切り、老婦人は犠牲となる。人間の平均寿命のビッグ・データに基づき、ロボットカ―は子供の命が老婦人のそれより長生きすると判断する。

いずれにしても、ロボット車のプログラミングは人間の仕事だから、車内の人間を事故から守ることを最優先するようにプログラミングするか、車内の人間を犠牲にしても事故を最小限度に抑えるようにプログラミングするか、議論が分かれるだろう(「自動運転車が選択する“最善の事故”」2016年1月31日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。