米中貿易戦争を懸念する前に、両国の輸出入品をおさらい

26日の米株相場は大幅反発を見せています。

ダウが23日に最高値をつけた1月26日から10%超も下げ名実共に調整相場入りし、S&P500も9.9%安を迎えた翌営業日は、200日異動平均線割れを前に買い戻される状況。テクニカル的な要因だけでなく、トランプ政権と中国当局が静かに解決策を探っているとの報道が奏功したのは、言うまでもありません。

カギを握るのは、ムニューシン財務長官、ライトハイザーUSTR代表、そして中国の劉鶴・副首相。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、ムニューシン氏とライトハイザー氏は前週末にかけ、習近平主席の経済アドバイザーで”economic czar”との異名を持つ劉鶴氏に書簡を送付したといいます。書簡では、①米国産自動車の関税引き下げ、②米国産半導体の輸入増加、③米金融機関による中国金融セクターのアクセス拡大——などを要請したもよう。24日にムニューシン氏と劉氏の電話会談が新華社を通じ報じられましたが、行動を起こしたのはムニューシン財務長官その人で、副首相就任に祝電を寄せながら、米国の対中貿易赤字縮小ヘ向けた対話を続ける方針を確認したのだとか。これが本当なら、忍び寄る貿易戦争開戦という暗雲に希望の光が差し込んできたと言って差し支えないでしょう。

トランプ政権は3月に入り1日に鉄鋼・アルミの輸入制限を決定し、22日には中国に対し知的財産侵害を理由に最大600億ドル相当の中国輸入品、約1300品目に関税を課す方針を打ち出し、世間を茫然とさせてきました。中国は、そのわずか数時間後の23日、あくまで鉄鋼・アルミ輸入制限の対抗措置として、米国輸入品30億ドル相当に25%、15%の関税を賦課する案を発表。トランプ政権からグローバリストが去り、保守派のポンペオ氏が国務長官に、強硬派のボルトン元国連大使が大統領補佐官(安全保障担当)に指名された状況も相俟って、ダウが23日に調整入りしたのも致し方なかった点は否めません。

しかし、考えてみれば米国の鉄鋼・アルミ関税賦課といっても、中国からの鉄鋼輸入は金額でこそ同国輸入品全体の2.4%を占めるとはいえ、国別の鉄鋼輸入量ではトップ10圏外なんですよね。供給過剰が問題視される中国に、既にアンチダンピング・相殺関税(AD/CVD)措置が講じられていたためです。

米国への鉄鋼輸入量上位は、以下の通り。


(作成:My Big Apple NY)

今後の関税対象商品が気掛かりですが、トランプ政権が中国との貿易戦争を望んでいるか否かは、その選定に関わります。2017年版の中国からの対米輸出トップ10は以下の通り。


(作成:米国勢調査局よりMy Big Apple NY)

翻って、中国による鉄鋼・アルミ輸入制限の対抗措置も、そもそも米国への輸入量が限定的である事情を考慮したのか、米国の主要輸出品を対象外にしている節があります。中国商務部の声明で明記されたのはフルーツ、ナッツ、ワイン、継ぎ目なし鋼管、豚肉、スクラップ・アルミなどでした。

ここで、米国の2017年版:対中輸出品トップ10をみてみましょう。


(作成:米国勢調査局よりMy Big Apple NY)

そう、関税賦課の対象に挙げられた品目は圏外なのです。具体的に申し上げると、15%の関税賦課対象とされる120品目の代表例として挙げられた果物とナッツは同じ分類のところ、2017年の輸出品全体の0.09%に過ぎません。継ぎ目なし鋼管を含む鉄鋼製品も、0.09%程度。ワインは、たった0.06%です。25%の関税賦課対象の8品目の一部である豚肉で漸く0.2%、スクラップ・アルミで0.9%へ上昇するとはいえ、中国側の声明では交渉が難航すれば段階的に15%、25%の対象商品に関税を賦課すると説明し、即時実効の姿勢を打ち出さなかった点は、特筆に値します。

何より、関税対象にボーイングに代表される民間航空機、大豆、乗用車、半導体などを挙げず、全面衝突をひとまず回避したようにも見えますね。中国が米国に配慮しているとすれば、トランプ政権が鉄鋼・アルミ関税賦課で日本を除外しなかった点も、忖度に見えるから不思議です。

楽観ムードが戻ってきたのか、ニューヨーク市場関係者からは「メディアが騒ぎ過ぎなんだ」、「トランプ大統領の交渉術でしょ」と冷めたコメントが聞こえてきました。ただ市場関係者の心は”秋の空”であり、且つ予測つかないトランプ政権のことですから、まだまだ安心はできませんが・・。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。