企業の経営リスクは、最終的には、自己資本によって吸収される。つまり、株主の負担になる。株主の立場として、単なるリスク吸収のためだけの株式に投資価値を見出すことはできない。株主は、企業が自己の本源的リスクテイクを自覚的に遂行すること、そして、そのリスクテイクがリスクに応じた利潤を生むことを前提にして、投資しているのである。
企業の本源的リスクテイクは、事業の性質に応じた自己資本の厚みを要求するから、適正なる利潤は、実金額ではなくて、資本の厚みに対する利潤率の問題として、その達成が企業経営者の責務とされているのである。
そして、その経営の責務を果たすためには、更に、本源的リスクに付随するリスクについて、資本に非効率な負荷がかからないように、適正に制御されていることが必要であり、また、本源的リスクテイクからの逸脱がないように、経営理念が揺るぐことなく貫徹していることが求められるのである。
特に、この後段について、投資家は、本源的リスクテイクの貫徹を前提にして投資しているのだから、そのことから発生する損失については納得でき、故に許容できても、その逸脱から発生する損失については、期待を裏切るものとして、断じて許容し得ないことに留意されなくてはならない。
では、銀行を例にして、本源的リスクテイクの貫徹を考えてみよう。どの事業でも、多くの場合、本源的リスクテイクは自明であって、それが何であるかを問うことは不要だし、問う人もいない。しかし、銀行については、それが何かと問うてみると、現在では、もはや、少しも自明ではないことがわかる。
例えば、融資業務という産業金融の社会的機能を本源的リスクテイクと考えるならば、その原資の調達手段である預金の受入れにかかわるリスクは付随的なものとなり、社債等の発行や、資産流動化等の市場調達手段にかかわるリスクとの相対比較のなかで、適切に制御されるべきものとなるはずである。
この方向での本源的リスクテイクの徹底は、一つの可能性として、銀行の廃業にもつながり得る。つまり、現行の銀行規制上、預金取扱金融機関の立場は、あまりにも経営拘束が大きくて、産業金融の本源的リスクテイクの高度化の阻害要因ともなり得る、即ち、付随リスクが制御範囲を超えることもあり得るので、究極の経営行動として、銀行を返上し、ノンバンクとして市場調達に特化する、あるいは、投資運用業として直接に投資家から資金を募る等の大胆な経営行動もあり得るということである。
逆に、本源的リスクテイクの対象として、預金の受入れという個人金融サービスを位置付けるならば、融資業務は、様々な資産運用の選択肢の一つとして相対化され、そのリスクは、付随リスクとして、資産運用にかかわる総合的なリスク管理のなかに吸収されることになる。
このとき、預金は、個人金融サービスの小さな一部にすぎないから、本源的リスクテイクのあり方として、投資信託、保険、消費者ローン、住宅ローン等の総合的サービス体制の構築がなされていくことになり、この方向の徹底も、最終的には、脱銀行に帰結する可能性を否定できない。
要は、伝統的な銀行の本源的リスクが顕在化しているのだ。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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