こんばんは、都議会議員(北区選出)のおときた駿です。
先月末で特別顧問たちが都庁から(少なくとも顧問・参与としては)去られたわけですが、その中のお一人で、主に子育て支援・待機児童対策を担当された鈴木亘先生が新刊を上梓されました。
今年度も大幅増で1500億円以上の予算が計上され、機動的な打ち手で進められている都の待機児童対策は、「見える化改革」と並ぶ小池都政改革の成功事例の1つです。
本書では鈴木亘氏が東京都顧問として就任し、いかにしてその待機児童対策を練り上げてきたか、そして実際に抵抗を跳ね返しながら実践に移したか(予算案に反映させたか)が詳細に描かれています。
この本の第2章・第3章で書かれている通り、経済学者である鈴木氏は社会主義化した保育業界の「自由化・市場主義化」を主張しており、当初は私自身もその方向性で大胆な都政改革が行なわれるのかと思っていました。
しかしながら、これまでも国や地方自治体の様々な改革に携わってきた鈴木氏は、
「急進的な改革では、都職員にも業界関係者にも決して受け入れられない」
ということがわかっていたようです。
「まずは供給量拡大が突破口」
として、保育園をどんどん増やしていく方針を取ります。
とにかく、保育園を増やして増やして増やし切り、待機児童が解消に向かえば、利用者たちに自分の望む保育園を選ぶ「余地」が生まれます。そうなると、保育園同士、競争をせざるを得ません。そして既得権者と非既得権者(株式会社やNPO法人などの認可保育の新規参入組や無認可保育園)の間にも、競争原理が働きだします。数が増えれば非既得権者の政治力も強くなり、不公平な既得権への批判の声も自然に高まるでしょう。イコール・フィッティングや上乗せ基準の問題は、時が熟すのを待って、その時に手を付ける方が政治的にこなしやすいと思います。
(P134~135より抜粋、強調筆者)
こうした鈴木氏のお考えは、一昨年「希望の塾」に講師として来ていただいた時にも伺っており、市場原理を重視するあまり「官製保育所は増やすべきではない」と考えていた私にとって目からウロコだったことを良く覚えています。
参考過去記事:
「保育園落ちた日本死ね!!!」って言われたけど、むしろ東京都は保育園をつくるべきではない理由
とはいえ鈴木氏は終章においてはきちんと、待機児童の解消はゴールではなく、最終的には価格の自由化・保育バウチャーなどで保育業界の社会主義を改め「ごく普通の産業」にすべきであると述べています。
(資料引用元)
都知事選後の2016年9月、この大胆で機動的な補正予算案が出てきたときは、小池都政に変わって良かったと心の底から思ったものです(待機児童対策については、いま現在も前知事以上の功績があると思います)。
また2018年度予算についても、ベビーシッターなどに新たな予算がつくことは私もこれまで取り上げてきましたが、この狙いは
「育休を1年まで取りやすくする各施策をパッケージとして取りそろえた」
ものの1つであることが、本書で詳しく解説されています。
1歳までの育休を取りやすくすることで、自治体にとってもっとも高負担となる0歳時保育を減らし、戦略的に待機児童を解消していくわけですね。
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この他にも、とてもブログ記事では紹介しきれないような改革のノウハウや実績が紹介されています。議員・議会関係者はもちろんのこと、ぜひ一人でも多くの人に手にとってもらいたい1冊です。
惜しむらくは、鈴木亘氏も先月末をもって特別顧問職を任期満了されてしまったことです。
こうなることを見越してか、本書の後半で鈴木氏はこう述べています。
もっとも、小池知事の就任から1年半が経過し、そろそろ待機児童対策については、私の役割は縮小しつつあることを実感しています。(中略)また、先にも触れたように、顧問団を使うことに対する都議会やマスコミからの批判も激しさを増しています。議会対策という意味でも、これまでのやり方を続けることは少し難しくなってくるでしょう。就任直後の戦後体制から平時の体制に移り、都庁内の人間だけで組織がうまく動くようになれば、それに越したことはありません。
(P205~206より抜粋、強調筆者)
さらにこの後に、「私に続く調整役を担う人々のため」として具体的なアドバイスが書き記されています。
そして彼が「予見」した通り、小池知事は議会対策のためか、特別顧問制度の廃止へと突き進むことになりました。
残念ながら私は、「もう特別顧問がいなくても大丈夫」と楽観視する気にはどうしてもなれません。
改革の旗印であり、しがらみのない立場から忌憚なく議論を牽引できる存在がいなくなれば、既得権者たちの猛反撃が始まるのは容易に想像できることでしょう。
実際、特別顧問制度によって一進一退の改革を進めている大阪府・大阪市でも、その制度運用はすでに8年近くに及んでいます。
ぜひ鈴木氏には、供給量を拡大させた後の「次のステージ(保育業界の自由化・市場主義化)」まで見届けてほしかったな…と率直に感じています。
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また鈴木氏は本書の中で、昨年の総選挙について少しだけ触れて、このように所感を述べています。
一時は、これまで必死に努力してきた東京都の待機児童対策も、いよいよここで終了かと覚悟しました。また、これから都内各自治体の選挙で都民ファーストの会が勢いを伸ばしていけば、東京都と各自治体の待機児童対策がしっかりとかみ合うようになる(東京都の弱点であった広域調整も可能となる)と楽しみにしていただけに、支持率低下は正直、残念に思っています。(P210より抜粋、強調筆者)
これには私もまったく同感です。
待機児童対策に限らず、あくまで実行部隊である基礎自治体の意向なくしては、実現に至らない政策が東京都には沢山あります。
知事が手を伸ばすべきは国政ではなく、地道に足場の都政を固めることだったのではないかと、改めて思わずにはいられません。
小池知事が高い支持率を維持し、抵抗を跳ね返して特別顧問ともども改革を推し進め、2019年の統一地方選挙以降はその改革が都内各自治体に次々と波及していく…
そんなもう一つの未来が眩しく見えてしまうのは事実ですが、それは考えても詮無いこと。
ここまでフルスロットルで鈴木氏や都庁内の改革派職員たちが残してくれた政策を維持・発展できるよう、私も議会側からできる努力を続けていきたいと思います。
それでは、また明日。
編集部より:この記事は東京都議会議員、おときた駿氏(北区選出、かがやけ Tokyo)のブログ2018年4月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。