日銀が消費者物価指数2%上昇の目標を掲げてから久しい。
中央銀行としてのブレない姿勢は大いに評価できるが、現実的にはデフレ脱却は困難だろう。ましてや、インフレは当面は発生しないと私は考えている。
以下、主だった理由を挙げてみよう。
最初の理由として急速な技術進歩を挙げることができる。
一昔前は、20万円以上するビデオデッキやレーザーディスク機器を使わなければ観ることができなかったアニメやコンサート映像などが、今はYouTubeでいつでも無料で観ることができる。動画撮影用のカメラもかなり高価だったし、フィルムカメラもそれなりの値段がした。まとめて購入すれば高額な出費になった。
ところが、今やスマホ一台あれば(限界費用ゼロで)全てが賄えてしまう。
ドンキホーテの4Kテレビのように、ほんの数年前まで高価品だった4Kテレビですら、大幅に値崩れしている。
これらは一例に過ぎず、技術進歩によって数多くの分野において従来の高級品がコモディティ化して安価になっている。
この傾向は今後ますます強まり、決して衰えることはない。AIやブロックチェーンが実用化されれば、技術進歩は飛躍的に進むだろう。
第2の理由として自由貿易の推進が挙げられる。
国内市場だけを対象にしていれば、物やサービスの価格は、需要曲線と供給曲線が交わるE点に対応するPとなる。
ところが、貿易が促進されるとPよりも必ず値段が安くなる(安くならないのなら貿易をする意味がない)。
紆余曲折はあろうが、長期的に見ればTPP等の自由貿易が促進されるので、日本では食料品価格が下落するのは間違いない。
外国産の安い米や大豆などの穀類、乳製品、肉類などの供給は、消費者に大きな恩恵をもたらすことになるだろう。
もちろん、自由貿易の恩恵は食糧品に限ったことではない。
第3の理由は参入障壁の撤廃が挙げられる。
バブル以前の銀行は、大蔵省主導の「護送船団方式」をとっていた。
一番体力のない銀行(一番速度の遅い船)に合わせて、全ての銀行の預金金利や貸出金利が決まっていた。
一番体力のない銀行の経営が成り立つ金利で堂々と商売ができたのだから、体力のある大銀行がボロ儲けできた訳だ。
30歳を超えれば年収1000万円が約束されていた時代だった。
これは人為的な参入障壁によって、障壁外の一般消費者の利益が奪われた一例に過ぎない。現在でも特定の業界や産業を守るための参入障壁が多々存在している。
しかし、技術的であろうと人為的であろうと、参入障壁は必ず消滅に向かう運命にある。
参入障壁が消滅すれば障壁によって守られていた超過利潤がなくなり、その分価格は必ず下落する。
過去記事:大企業正社員という特権はいずれ崩壊すると覚悟しよう!
思いつく理由を挙げ出すとまだまだあるが、とりあえずこのくらいにしておこう。
いずれにしても、現代は過剰なまでの供給に需要が全く追いついていない。
「これでもか!」と言わんばかりに供給される財やサービスを消化しようと思えば、1日48時間あってもとても足りないというのが実情だ。
供給過剰が永続すれば、必然的に財やサービスの価格は低下し続ける。
懸念されるのは保護貿易主義の台頭と世界人口の大爆発だろう。
国民の利益を犠牲にする保護貿易主義を長期間継続できる為政者はいないので、紆余曲折はあっても自由貿易拡大が止まることはないだろう。
人口大爆発の方がはるかに大きな問題だ。
ただ、世界的に見て高い購買力を持つ日本が食糧不足に陥るのははるか先のことだろう。
世界レベルで考えると人間は本当に不平等だ。飢餓と不衛生で苦しむアフリカの子供たちがいると同時に、肥満に苦しみ食事制限に励む先進国の人たちがいる。
人類平等の理想主義を掲げる人とて、自分の子供をアフリカの子供たちと同じ環境には置きたくないはずだ。
かくして、食糧不足は購買力の乏しい国々から先に蝕んでいく。
日本までたどり着くことがあるのかどうか、私にはわからない。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。