スポーツ界の“やりがい搾取”に気をつけよう

鈴木 友也

今年も新社会人がフレッシュな息吹を組織にもたらしてくれる季節を迎えました。うちのインターンOB/OGの中にも、今年新社会人になるのが何人かいます。彼らの社会への門出を祝うとともに、これからの長い人生で、社会に価値を創出しながら自分のやりたいことを実現し、固有の居場所を作ることができるように応援したいと思います。

さて、そんな新陳代謝がもたらされる季節であることを鑑み、SBAでも4月24日にこんなセミナーを実施します。以前から理事の間で是非やりたいと話していたものです。

スポーツ界で活躍するために20代で必要なこと ~間違いだらけのスポビズキャリアの作り方

スポーツビジネスは「夢の仕事」(Dream Job)とも言われ、2020年の東京オリンピックの開催もあって多くの若者が一刻も早くこの業界で働きたいと躍起になっている。各地で有志の情報共有会や勉強会が開催され、多くの大学や教育機関がスポーツビジネスコースを提供している。

しかし、「いち早く業界で働くこと」と「業界で活躍すること」は似て非なるものだ。今や人生100年時代とも言われ、ビジネスパーソンとしての活動期間は半世紀にも及ぶ。そんな長期戦に臨むに当たり、夢だけ膨らませて何とかスポーツ業界に潜り込もうと固執するのは、目隠ししたまま丸腰で戦場に突入していくようなものだ。

(中略)

仕事に脂がのってくるのは40代を過ぎてからだとも言われる。この年代に勝負をかけるために、今何をしておくべきなのだろうか? 大企業/ベンチャーでの経験は活きるのか? 留学経験はあった方がいいのか? 英語は役に立つのか? 女性が活躍するために肝に銘じておくべきことは何か? などなど、20代で必要になる職業観やキャリアプランなどについて、登壇者が受講生の皆さんに等身大のストーリーを共有する。

どの国・業界にも多かれ少なかれ「搾取構造」が存在します。例えば、日本で最も大きな搾取構造の1つは、解雇規制があるため企業が過去に採用した正社員を優遇せざるをえず、その結果、新規採用において非正規社員が多く生まれ、同一労働を行いながらも金銭的に区別されてしまう年功序列型雇用制度でしょう。これは、既得権に根差した搾取構造で、今や世代間闘争の様相すら呈しています。

コンビニやファーストフード業界なども、現場を回している大部分は学生のアルバイトや留学生、移民ですよね。まあ、「搾取構造」というと、ちょっと言葉が悪いかもしれませんが、もう少し波風立たないように言い換えるなら、異なる動機やスキルを持った人材を上手く戦力化して、効率的な経営を実現していく、とでも言いましょうか。

スポーツ業界にも“搾取構造”は存在します。しかも、スポーツ界の場合「やりがい搾取」という巧妙な形を取るため、一見すると気づきにくかったり、気づいても目の前のニンジン(スポーツ界への就職)の魅力が強すぎて冷静な判断力を失うような、ある意味で性質の悪い形になっています。

東京オリンピックなどもあり、スポーツ界の注目度は高まってきています。ただ、既存企業の予算配分がスポーツに向けられてきたという程度で、実際に新たな市場が生まれている状況にはまだなっていません(まあ、これだけでも大きな変化ですが)。スポーツ産業の中心ともいえるプロスポーツでは、市場規模はここ10年ほとんど横ばいです。Bリーグはできましたが、これは既存のリーグを統合しただけで、新たな市場がゼロからできたわけではありません。

椅子取りゲームをイメージしてもらうと良く分かるかもしれません。日本のスポーツ業界の状況は、大学などが積極的にスポーツビジネスの学科を設けるなどの流れもあり、ここ10年でゲームの参加者の数は増え続けています。その一方で、椅子の数はほとんど変わっていません。それは、「儲かる教育」が幅を利かせ、椅子を増やすことができる人材が育成されないからです。

では、なぜこれで椅子取りゲームが続いていくかというと、定期的に辞める人がいるからです。スポーツ業界は長時間労働、土日休みなしなど、絵に描いたようなブラック企業ですから(笑)、情熱や夢だけあっても、職場で戦う武器がなければ10年も経てばバーンアウトしてしまうのです。装備を持たずに登山を始めてしまうと、途中で上にも横にも行けなくなって「これ以上ムリ」となってしまうのです。

以前、「なぜ天職はすぐに見つからないのか?」でも“3つの円”を使って解説しましたが、「好きなこと」を追い求めても、「できること」の範囲を広げなければ、天職になど出会わないし、面白い仕事などできません。「好きなこと」しか追い求めない人は、独りよがりで早晩燃え尽きて終わります。

僕も自分の会社の採用や人生相談などを通じて多くの学生と面談しますが、「自分は○×の理由でスポーツに情熱を持っています」「御社の業務が私のやりたいことにマッチするのです」という自己PRに終始する人が少なくないです。でも、経営者の本音は「あなたのやりたいことではなく、できることが知りたい」なのです。

言い方は悪いですが、こうした猪突猛進型の兵隊クラスタが定期的に入れ替わりながらスポーツ界に安価な労働力を提供し、現場を回しているのです(この状況は日本もアメリカもあまり変わりません)。ある人が「“スポーツビジネスの塔”に一番下から入っても、2階から3階に上がる階段はない」と言っていましたが、言い得て妙だと思います。そして、こうした現実に、スポーツ界に入った後で気づいても遅いのです。

さて、冒頭で紹介したSBAセミナーですが、今回はスポーツ界でその人にしかできないユニークな仕事をして業界や組織の中で存在感を発揮している若手の皆さんを登壇者としてお招きします。全員30代です。キャリアの築き方に「正解」はありませんが、スポーツ組織で「活躍」するためには何が必要なのか、彼らに共通するものが見えてくると思います。

以下のような皆さんを主な対象にしていますので、興味がある方は是非ご参加下さい。セミナーの後には懇親会もありますよ。

※将来スポーツビジネスに関係する仕事に就きたいと考えている学生

※将来スポーツ界への転職を考えているビジネスパーソン

※日本のスポーツ界での本質的な人材育成を考えている教育関係者


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2018年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。